ひろしまの在来作物
センターニュースの前身 「農業技術センターだより(1995年8月~2007年1月刊行)」 に
掲載されたシリーズ 「ひろしまの在来作物」を再編集し,掲載しています。
地名など,掲載当時のものをそのまま載せています。
現在の情報とは異なる場合もありますがご了承ください。
在来作物とは? ある地域で古くから栽培されてきた農産物のこと。 |
かきちしゃ 蔭あずき 河内一寸 観音紫蘇 観音ねぎ 黄粉大豆 ゴキネブリ
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![]() | 鞆港から車で約40分,備後灘に浮かぶ小さな島,走島に昔から栽培されている珍しい小豆がある。土地の人は「ぶどうあずき」と呼んでいる。その名のとおり,ブドウのマスカット色をした小粒の「あずき」で,1000粒の重さは僅かに37gあまりである。普通の小粒あずきが100~140gであるから,その大きさがわかろう。 農業ジーンバンク 沖森 當 |
![]() | 黒い皮色に灰色の混色がある小豆で,100粒重が約20gもある大納言並の大きな小豆である。芸北町では無肥料でもよくできるといわれている。また,昭和58年の長雨の年には,他の品種は収穫皆無であったが,この品種のみ収穫できたともいわれている。名前のとおり,日陰でもよくできるという特性を有していると考えられる。 農業ジーンバンク 沖森 當 |
![]() | ちょんまげ豆(サムライ,シロクロ,ホウカブリ豆) 安芸郡蒲刈町田戸一帯に栽培されている在来「ささげ」である。名前を色々もっているように。場所より呼び名が違い,面白い外観で,侍のちょんまげを連想させ白地に黒い斑がある。 農業ジーンバンク 沖森 當 |
![]() | ゴキネブリ 品種名が大変ユニークな「あずき」で,100粒重は10.9g前後なので小粒の部類に入る。 農業ジーンバンク 沖森 當 |
![]() | 立花豌豆 広島県には島しょ部地帯を中心に古くから栽培されている矮性のきぬさやえんどうがある。向島に入った品種は白花,能美島に入った品種は赤花で,赤花種の中には夏播き栽培にも利用できる極早生種もあった。入った年代については,農事調査の記事や古老の話から推測すると,能美島では明治10年頃,向島では明治40年頃と思われる。 農業ジーンバンク 船越 建明 |
![]() | 河内一寸 1948年より大阪泉南の種苗店(羽曳野市 西本種苗)との契約で沼隈郡内海町の農家が採種していたのが,大型のソラマメ「河内一寸」である。現在はJA沼隈がこれを引き継いでいる。1960年代,因島市や三原市鷺浦町の篤農家の中にはこの品種の採種を行って種子を販売するかたわら,優れた大粒系統の選抜を行い,独自の系統を保存している農家も何戸か見られた。そのうちの一部はジーンバンクに保存されている。 農業ジーンバンク 船越 建明 |
![]() | 黄粉大豆 三次市石原町で自家採種を繰り返しながら大切に保存されてきた品種である。皮色は黒,子葉色は緑色,100粒重25g前後とやや小型の品種で,極めて香りが良い。子葉色が緑色のため,上質の黄粉として利用されていたが,最近この品種で作った豆餅(御調町)や納豆(向原町)が好評である。本年は神石町の岩戸営農組合で豆餅材料としての実用性が検討されている。 農業ジーンバンク 船越 建明 |
![]() | ちゅうじゃく(たかな,搔ぎ菜) 「大葉たかな」は在来野菜として最も一般的で,広島県には「紫たかな」という代表的な品種があり,全国的に有名である。県北地帯には「大葉たかな」の在来種と思われる「青たかな」が各地で栽培されていて,別名を「ちゅうじゃく,搔ぎ菜」ともいわれている。 農業ジーンバンク 沖森 當 |
![]() | テイレギ テイレギは冬季の畑雑草であるタネツケバナの大型種で,和名をオオバタネツケバナという。水温が18℃前後の流水中でよく生育する。安浦町野呂山の伏流水が湧く谷で生育が確認されている。葉にピリッとした独特の辛味があり,柔らかい幼芽を刺身のつまやお浸しとして利用する。 農業ジーンバンク 船越 建明 |
![]() | うぐろ大根 うぐろ大根の「うぐろ」とは,広島の方言で「モグラ」を意味する。大根の形が元から先まで同一の太さで長さが短く,モグラに似ていることからこの名がついた。この品種は広島の在来種である「三月子大根」と「ねじま大根」の自然交雑の後代から選抜されたものといわれている。栽培の歴史は古く,既に江戸末期から観音地区や三篠地区で栽培されていた。うぐろ大根には,昭和15年頃には早生と晩生の2系統があり,早生は白茎で水入り大根,晩生は青茎で沢庵用うぐろ大根と呼ばれていた。現在残っているのは早生のみである。 農業ジーンバンク 船越 建明 |
![]() | 笹木三月子大根 笹木三月子大根は笹木憲治氏(当時の広島市安古市町字長楽寺)によって育成された抽根しない極晩抽性の丸大根である。昭和36年に「三月子×聖護院」の交配後選抜が重ねられ,昭和50年にようやく目的とする固定系が育成された。 農業ジーンバンク 船越 建明 |
![]() | 近江菜 近江菜は三次地域に土着しているかぶ菜である。栽培は大正末期から昭和初期にタキイ種苗からの購入種子から始まったようで,既に70年以上の歴史がある。形態は野沢菜によく似ているが,色はやや薄い。葉は茎部まで葉身があり,表裏共に毛耳なく,肉厚で照りがある。播種期は菜としては遅いほうで,三次市での適期は10月中旬である。早く播きすぎると繊維が強くなり品質が悪くなる。よく熟した堆肥の施用効果は高い。 農業ジーンバンク 船越 建明 |
![]() | 太田かぶ 太田かぶは太田川流域の加計,戸河内地方で古くから栽培されている大型のかぶである。これと似たものに三次地方の寺戸かぶがある。これらの栽培起源は古く,明治38年に出版された農事調査書にも栽培の記述がある。当時はきびやあわとの混作でこれらの補完作物として栽培され,根も薹(とう)も共に利用していた。その後採種に失敗し,他のアブラナ科作物と交雑したため,根部の品質は悪くなり利用できなくなった。しかし,薹(とう)の部分は甘味と香りに富み歯切れもよく,青物の不足する春先の野菜として期待されている。 農業ジーンバンク 船越 建明 |
![]() | 春木在来 山県郡千代田町春木地区で数十年にわたって栽培されている在来の高菜である。葉の大きさは一般に栽培されている高菜類に比べるとやや小さく中助部も狭い。葉形は箒状で葉縁には浅い欠刻があり,高菜というよりは不結球白菜に近い。アントシアンの発生は少ないが,高菜類に特徴的な辛子臭は並である。耐寒性は特に強いとは思えないが,三池高菜等に比べると中助部の被害が少ないようである。 農業ジーンバンク 船越 建明 |
![]() | 青大 「青大」は品種分類では河南型の青長群に属する。耐暑性が強く肉厚で柔らかく,着果数は少ないが1果重が1kgくにもなる晩生の大型キュウリである。古くから福岡,広島を中心とした西日本で広く栽培されていたが,現在栽培が普及している節成り群に比べて晩生で収量が劣るため,栽培面積は次第に減少し,広島県でも既に栽培がなくなったものと思われていた。ところが,この度,福山市,神石郡神石町,比婆郡西城町等で栽培が続けられていることが確認された。特に福山市ではこのキュウリを「ドブウリ」と呼び,5~6人の農家がドブウリ生産組合を結成して市場出荷を続けている。 農業ジーンバンク 船越 建明 |
![]() | 田尻南瓜 田尻南瓜は,1640年代に当時の福山城主水野勝成が島原に出兵した際,薩摩から持ち帰ったのが始まりと言われている。その後1810年~1840年代に品種改良が行われ,1果で10kgい大果が育成された。昭和に入ってからも栽培が継続されたが,次第に小果へと変わっていった。 農業ジーンバンク 船越 建明 |
![]() | 矢賀うり 矢賀うりは昭和30年代の初めに当時の広島市矢賀町で栽培されたのが始まりとされている。その後,地元の種苗商を中心に,耐暑性が強く夏に苦みの出にくい系統の選抜が行われ,現在の品種ができた。この品種は,鮮やかな緑に黄色の縞を持ち,果実の美しさと浅漬けにした時の淡い甘味と歯切れの良さが特徴である。更に耐暑性が強く,夏場を中心に長期間収穫できる。 農業ジーンバンク 船越 建明 |
![]() | 下志和地在来 肉色が淡黄で肉質柔らかく,シャリとさわやかな甘味がある小型の枕型黒すいかである。三次市下志和地町春木集落の升田昌三氏が昭和50年に三次市の八百屋「尾関商店」で購入したのがはじまりで,以後20年以上自家採種している。果重は着果数の多少にもよるが,平均して3kg度(これくらいの大きさにした方が良い),皮色は暗緑で縞はなく果皮は薄い。葉はやや大型で低温伸長性に優れるが,土壌病害には弱いようなので,連作する場合は耐病性台への接木が望ましい。着果が非常によいため必ず摘果する。1株の着果数は栽植密度と関係があり,3.3平方メートル当たり1株の場合は5~6果とする。果梗が蔓から離れ易いため,果実にマットなどを敷く時にはできるだけ動かさないように注意する。盆前収穫を狙う作型の場合,着果後30日程度で収穫できる。巻き蔓の枯れ具合と打音によって収穫期を判定する。収穫後の貯蔵性は劣る。 農業ジーンバンク 船越 建明 |
![]() | 御調在来 とうがんは歯切れが良いのが特徴で,好みによって味付けが自由にでき,夏には冷やして食べれば食が進み,冬には熱くして食べれば体が温まる便利な食材である。とうがんの中には重さが10kg上ある大型品種もあるが,この品種は3kg外の小型であるため切り売りの必要がなく,家庭菜園や産直市用にも適している。 農業ジーンバンク 船越 建明 |
![]() | 葉牛蒡 広島市西区南観音町で栽培されている葉牛蒡はいつ頃から栽培がはじめられたのか不明であるが,明治の終わりか大正の初め頃ではないかといわれている。主として葉柄を利用する珍しい牛蒡である。 農業ジーンバンク 沖森 當 |
![]() | 温品ホウレンソウ 昭和31年にホウレンソウの種苗登録第1号となった品種で,育成者は安芸郡温品町(現在,広島市東区温品町)の榎木為一氏である。発表当時は耐暑性の強い早生種として全国的に話題になった。その後,F1品種の普及につれて徐々に栽培されなくなり,原種はもう無くなったと思われていた。 農業ジーンバンク 沖森 當 |
![]() | かきちしゃ レタスの仲間の非結球型グループの一つに,在来のかきちしゃがある。このかきちしゃの栽培は県内でも古くから行われており,大竹市後原の農家では,その品種を50年以上長期にわたって栽培している。 農業ジーンバンク 船越 建明 |
![]() | 観音ねぎ 広島市観音地区で葉ねぎの栽培が始まったのは明治中期で,以来100年以上にわたって品種育成,採種をしながら栽培が続けられている。現在栽培されている品種は九条系から選抜育成されたもので,分げつが多く,肉質柔らかく,耐寒耐病性に優れている。適した作型は2~7月播き,6~1月収穫である。春先に抽台しやすい性質があるため,冬越しして収穫する作型には適さない。 農業ジーンバンク 船越 建明 |
![]() | 観音紫蘇 栽培の起源は明らかではないが,ねぎや葉ごぼうの産地として知られる広島市観音地区の農家が長年にわたって選抜を繰り返し育成したものである。紫蘇の葉には梅漬けの着色に利用されることでも解るように,酸により鮮やかな赤紫色を呈する色素が含まれている。 農業ジーンバンク 船越 建明 |
![]() | 矢賀ちしゃ(2種) 先日,広島市農林振興センターのNさんから「矢賀ちしゃ」の種はありませんかという電話を頂いた。早速検索すると赤系と青系の2系統があることがわかったが,発芽率が極端に低い。特に赤系ではコンマ以下である。Nさんには種の分譲時にそのことを伝えたが,とにかく早急に増殖しなければならないと思い,赤系では短期貯蔵の約半量,青系では百粒程度を用いてインキュベーター内で発芽を試みた。幸い両系統共に5粒程度発芽したのでガラス室内のポットに植え,現在栽培中であるが,これが共に優れものである。 農業ジーンバンク 船越 建明 |
![]() | 寺家在来 広島には古くからパセリが栽培されている。品種はパラマウントから育成された「瀬戸パラマウント」と在来種から選抜した「鯉城」がある。「寺家在来」は「鯉城」から選抜されたものである。パセリは暑さに弱いため,広島市近郊では主として秋~春に栽培されていたが,1970年代に芸北町で盛夏期の栽培が試みられ一部が定着した。その中で葉色がやや薄く縮みが細かく耐暑性の強い数株が見つかり,当時,普及員の指導でこれらの間で採種が繰り返されながら栽培が継続された。その中の数株を先輩が西条へ持ち帰り,数年間自家採種したものを「寺家在来」として収集した。葉色は「鯉城」が濃い緑色であるのに比べてやや淡い鮮緑色で,縮みは「鯉城」より細かく品質は極めて良い。 農業ジーンバンク 船越 建明 |