吉本 豊さん(経済産業省大臣官房会計課長)
当たり前にある自然の恵みと優れた企業は
外から見れば当たり前ではない貴重な財産
<プロフィール>
吉本 豊(よしもと ゆたか) さん ※「よし」の漢字は「土」に「口」です
昭和40(1965)年8月30日広島市生まれ。
私立広島学院高校、東京大学工学部を経て、昭和63(1988)年、当時の通商産業省に入省。入省後、米国コロンビア大学留学やパリ駐在を経て、情報通信機器課長時代は、県内半導体メーカーの再生に尽力。
その後、アベノミクス第三の矢の一つ「産業競争力強化法」を担当。
現・経済産業省大臣官房会計課長。大のカープファン。
東京に出て気づかされた
ひろしまの恵まれた環境
私は広島市で生まれ、3歳から高校まで大竹市で育ちました。
大学進学で上京して気付かされたことは、ひろしまの食生活がいかに豊かだったかということです。特に魚介類は新鮮で、地のものが当たり前でした。上京して、居酒屋の店員さんが赤いシャーベット状の生臭い塊のことを刺身と呼んでいました。初体験のマグロです。大変驚くとともにひろしまの恵みを実感しました。
また、当時、東京下北沢にひろしまのお好み焼きの店がありましたが、“ひろしまメシ”を懐かしむ同郷の固定客ばかりで、「やっていけるのかな」と失礼な心配をしたものです。今では、ひろしまのお好み焼きは東京でも気軽に食べられるようになりました。
ひろしまでは普通すぎて当たり前だと思っていたものが、ひろしま以外の土地の人たちには大きな価値があることを知りました。
広島市も東京より文化的だと思います。東京では最近大型書店も駅前の小型書店も数が減っていますが、旧市内だと自転車を20分も漕げば中心部の大型書店でゆっくり本を選ぶことができます。
また、キャビンアテンダント(旅客機の客室乗務員)の間ではひろしまは人気のショッピングタウンです。複数のデパートが近距離に立地し、ブランド品のセールも人気商品が豊富に残っているなど、買い物がしやすいからだそうです。コンサートホールもあり、美術館もある。優勝を争うプロサッカーチームも、日本一のプロ野球チームとスタジアムだってある。街がコンパクトだから、思い立てば、その日にすぐに手にはいります。
また、ゴルフもスキーもマリンスポーツも、朝暗いうちや前の晩から家を出なくても気軽に楽しめる。食事だけでなく人もうらやむ地酒・銘酒が地元に数多くある。ひろしまに残る友人や親戚が、レベルの高い文化的生活を驚くほど気軽に楽しんでいるのを見て、大変うらやましく思います。このような認識が広がれば、人口増加へのきっかけが生まれるのではないでしょうか。
さらに言うと、街のコンパクトさを活かし、自転車と路面電車を活用すれば、車のいらない街にできるかもしれません。自動車メーカーのある街でこんな提案はどうかと言われるかもしれませんが、環境やエネルギー問題の未来を考慮することも大切です。(オランダ)アムステルダムや(フランス)ボルドーには素晴らしい路面電車と自転車専用道路がうまく同居しています。パリやロンドンのようにコミュニティサイクルを気軽に利用できれば、市民はもちろん、観光客にも便利ですし、すばらしい財産になると思います。
機械工業の裾野が広いひろしまでは、
クオリティの高い技術者が普通に
以前、県内の半導体メーカーの再生に関わっていました。半導体製造装置が故障すると、関東の装置メーカーから純正部品を取り寄せなければなりません。時間がかかるし、何よりも費用がかかってしまう。そこで、ひろしまで同じ部品が作れる工場を募集したら、クオリティが高い上に、びっくりする程安い価格で作ることができたのだそうです。これは、ひろしまにはマツダのような日本トップクラスのメーカーがあり、その協力会社である部品工場が企業城下町を形成しているおかげだと思います。古くは、海軍工廠などがあったからなどいろいろな要因が重なったのだと思いますが、機械工業の裾野が広いことはひろしまの特徴ですし、そこが育んだ技術者のレベルの高い仕事は貴重な財産です。
そもそも自動車メーカーの本社がある地域なんて、日本はおろか世界にも数えるほどしかありません。それに加えて、半導体メーカーや、地銀トップの銀行、電力会社、都市ガスと、基幹産業がワンセット揃っている。それらがお互い共鳴しながらある種の生態系を作っているのだと思います。企業間のつながりが濃密であることは、その場でイノベーションをおこすときの大切な要素となります。ひろしまで、機械情報産業だけではなく、アンデルセン、洋服の青山、ユニクロ(お隣の山口県発祥ですが:第1号店を広島市に出店)、ダイソーなど、日本全国や世界にも認知される企業が生まれているのは、この生態系ネットワークや旺盛な起業家精神と無関係ではないでしょう。
「ネイティブスピーカーになろうと思うなら、
ひろしまに住め」と言われるような都市に
ひろしまは、東京高等師範学校と並ぶ“教育の西の総本山”と呼ばれた広島高等師範学校があった教育県です。いまのひろしまも、時代に合わせ、教育で飛び抜けた存在になることができると思います。以前、マツダが協力会社との国内の取引も英語を使うことを推奨していました。これが一つのヒントになると思います。
ひろしまは、平和記念公園や宮島という他に無い強力な観光資源のお陰で、海外では大変知名度の高い地域です。また岩国米軍基地の影響でFENラジオ放送(現AFN)をはっきり聞くことができます。ひろしま出身の小林克也さんではないですが、実は、もともと英語と接する機会の多い街です。これに加えてビジネスの面でも英語を使う機会が増えると、親子で英語を学ぶ機運が盛り上がります。
外国の方が、ひろしまに赴任して、家族で住んだとき、お子さんが通えるような学校環境を充実させる。学校に行けば同級生に普通に英語を話す外国人がいる。街では外国人から英語で道を尋ねられる。会社では普通に英語で仕事をしている。外国人や外国語が日常となることは、ひろしまなら突拍子の無いことでも、不思議なことでも無いはずです。行政と教育とビジネスが一体となってひろしまの子どもたちの英語力、学力を向上させることを考えてはどうでしょう。自然に外国語が出るような子どもを育てたい親は極めて多くいます。「子供をネイティブスピーカーにしようと思うなら、ひろしまに住め」と言われるような、世界を視野に入れた教育を行う県になれば、もっとひろしまの魅力が増し、人口も増え、産業も発展するのではないでしょうか。広島弁の次は標準語よりも先に英語を身につける――素敵だと思われませんか?