映画「この世界の片隅に」片渕監督に独占インタビュー![後編]

2016年12月16日

映画「この世界の片隅に」片渕須直監督

大ヒット公開中のアニメーション映画「この世界の片隅に」。 全国挨拶行脚中の片渕須直監督を広島市中区の八丁座に訪ね、お話を伺いました。先週に続き、インタビュー後編をお届けします。

片渕監督 独占インタビュー[前編] はこちら

原作コミックの中から、映画として採用するエピソードはどのような基準で選ばれたのですか?

片渕監督 基本的には全部網羅するつもりでしたが、どうしても2時間の枠を超えてしまう。 そこで考えたのが、すずさんという1人の女性の成長を何によって描くかということでした。 そこで、すずさんの義姉である径子さんとの関係が確立されていく様をしっかりと描くことで表現しようと思い、径子さんを副主人公に置く形でストーリーを選んでいきました。 ですから、径子さんは非常に大事な役回りとして登場しています。

この映画を見た方に感じて欲しいこととは?

片渕監督 すずさんという人を、自分たちの心の中に宿せる人として描きたいと思いました。 まったく他人ではなくて、すぐ隣にいる人であったり、映画をご覧になった方にとっても大事な友達のように感じていただけるように作ろうと。 そんなすずさんの上にも戦争というものが降りかかってくる。 すずさんを通して、そのことの痛ましさを感じていただければと思います。 映画をご覧になった方から「呉や広島の町並みを正確に再現している」と言っていただくのですが、それはその中にすずさんが本当に存在している、実在している人のように思わせたいと考えて作ったところが大きかったような気がします。

映画「この世界の片隅に」片渕須直監督

確かに、すずさんがとても身近に感じられました。

片渕監督 映画をご覧になった方に「アニメーションを見た感じがしない。 映画を見た感じもしない。 まるでタイムマシーンでその時代に行って、すずさんやすずさんの家族と一緒に時を過ごしてきたような気がする」と言っていただいて、ありがたいと思っています。 すずさんをはじめとする登場人物の日常が、戦争に翻弄されていく様子を見ることで、戦争というものの意味も自然と伝わるのではないかと思います。 遠い昔のことではなく、自分たちと同じような人たちの上に起こったことなんだと感じていただければ嬉しいです。

この作品は、冒頭から自分がそこに『入ってる感』がありました。360度、風景が見えるような…。

片渕監督 まわりからは『没入感』と言われているのですが、そのことには、作り手である自分自身がその町を実際に歩いてみたことが大きかったと思います。 すずさんが船に乗るシーンがあるのですが、あそこも実際に「雁木タクシー」に乗ってイメージを膨らませました。

映画「この世界の片隅に」片渕須直監督

私も、祖父母から聞いた戦時中の話を思い出しながら拝見しました。

片渕監督 人生の大事な若いころ、本当だったら花が咲くころがたまたま戦争だった。 だとしても、それはかけがえのない人生だと思います。この前広島に来たときに、平和記念公園の下を発掘している現場を拝見したのですが、本当に普通のお宅の便所やお風呂屋さんの焚口があったり、その中からインク瓶が出てきたり、子供のラムネ瓶が出てきたり、普通の日常がその瞬間に止まってしまったんだなと感じました。

この作品は、見た人によって「良かった」と感じるシーンが異なるところが特徴的だと感じました。

片渕監督 映画というものは心の作用のもので、それは自分たちが作った映像や音をお客様が受け止めて心の中で初めて映画として『発酵』して作られるのではないかと思います。 なので、あまり「こういうものです」と言うのではなく、描きたいものを色々描く。 すずさんが生きていた時代・時期をそのままスポッと映画の中にはめ込んで、その中のどこを見ていただいてもいいようにしようと思いました。 そうすることで、ご覧になった方によって、画面の中に映っているあそこが自分の思い出を喚起するとか、あそこが自分の母親の記憶にまつわる何かに近いとか、いろんな風に思っていただくことができるので、ご覧になった36万人の数だけ映画が出来ている。 つまり、「この世界の片隅に」という映画は、ご覧になった方の数だけ存在していると思っています。 「いい映画だね」と言っていただけるのは、見てくださった方が素晴らしいということです。 そういう意味で言うと、素晴らしい出会いやご縁がこの映画を通してあって、幸せな映画だなと思っています。

映画「この世界の片隅に」片渕須直監督

この映画の中には、色々な仕掛けがあると感じたのですが。

片渕監督 こちらでこれを見てくれと言わないで、いろんなものを全部入れようと思いました。 「この世界の片隅に」ということで言うと、世界がまずあって、その片隅に住んでいるすずさんという風に描きたいと思って作りました。

最後に、広島県民の皆さんにメッセージをいただけますか?

片渕監督 広島の方はこの映画の中に描かれている色々なものが、特にご自分の身近なものに感じられるのではないかと思います。 見たことのある風景、いつも見ている川・橋、それから山や海の色。 すずさんを一番身近に感じていただけるのではないと思います。ですので、ぜひ、すずさんと仲良くしてあげてください。

監督、本日は貴重なお話、ありがとうございました。

映画「この世界の片隅に」ポスター

「この世界の片隅に」公式サイト

取材協力/八丁座(広島市中区胡町6-26 福屋八丁堀本店8階 TEL:082-546-1158)

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