
佐々木久子(随筆家・評論家)
広島市生まれ。昭和30年4月から趣味の雑誌「酒」の編集長として日本全国の酒行脚をつづけ、ユニークなミニコミ雑誌をつくりあげてきたが、昭和60年6月1日から企画監修人として参与。現在、テレビ・講演・随筆・評論などに辛口派として活躍している。
● 日本ペンクラブ会員・日本エッセイストクラブ会員
● 俳号/柳女(りゅうじょ)(青郊連句会(せいこうれんくかい)メンバー)●趣味/落語・プロ野球・麻雀など●著書/「おいしいもの見つけた」(ミリオン書房)「酒の旅人」(実業之日本社)●近著/「わたしの放浪記」(法蔵館)
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つい先夜、天野祐吉(あまのゆうきち)さん(広告批評)と女優の富士真奈美(ふじまなみ)さんと痛飲した。
天野さんはそれほどの酒客ではないが、富士さんはかなりの飲み手である。
はじめは青山の小料理屋であったが、私と富士さんは二次会へと繰り出した。
ところは新宿納戸(なんど)町。店名はズバリ「ひろしま」である。広島市出身の男性がひとりで料理を作りお酒を出している。お母さんと二人ではじめた店だそうだが、目下お母さんは体調をこわして店には出ておられない。
お客は、広島県人が圧倒的に多い。カウンターに六人も並ぶともう大入りという店だから、誰もが心やすくしゃべりあう。
M新聞の記者は呉市出身、某商事の社員は西条の出身。私は広島市とあって、もう遠慮なく広島弁まるだしで、ケンケンゴウゴウ。
「カープはおしかったなぁ」
「投手が足りなかった…」
「いや、ヤクルトの謀略にやられた…」
などなどとやる。そのうち
「広島では、どこの酒が一番うまいかのォー、オバさん?」
ときた。これを尋ねられるのが一番私には辛い。
甘口の酒、やや辛口の酒、ほどほどに中庸の酒、中には水っぽいような酒…とさまざまあるから、酒の味についての好みは、一人ひとり違う。
ただ、広島県も瀬戸内海に面した地方の酒と、中国山脈に近い山の中の酒とでは、かなりの差があることは確かである。
広島県は、八反という酒造好適米に恵まれていることと、花こう岩帯からわき出る清冽(せいれつ)な水、そして筋金入りの技をもつ広島杜氏、と三拍子そろった酒の国である。
このことは他県にとっては脅威で、地酒ブームの起きている日本列島にあっても、広島の酒は堂々と横綱を張り続けている。
でも、好事魔多し、の譬(たと)え通り、油断は大敵。横綱の座を虎視耽耽(こしたんたん)と狙う地方が出てきたから、張り出し横綱になる危険性も高い。
「広島の酒はうまい!!」といわれる世評におごりたかぶることなく、いよいよ心を引きしめ、手を抜かない酒造りをやってほしいと願うものである。お酒が素晴らしい、ということは、文化の程度が高いということのあかしなのだ。
これからの世の中は、飲と食にかかわって生きる人が多くなるのは目に見えている。瀬戸内海の魚介類に恵まれている広島は、酒徒あこがれのお国であると私は信じている。
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