
町の約9割が豊かな森林に囲まれた「自然とやすらぎの里」比和町。比婆山連峰は標高1200メートル級の山々が連なり、目の前に大自然が悠然と横たわる。とりわけ、比婆山のブナ純林は西日本屈指のブナ林で国の天然記念物に指定されている。
町では、こうした豊かな自然を守っていこうと「自然を大切にし、自然と調和のとれた町づくり」を推進。環境問題がクローズアップされる中、国内初となる「もぐらサミット」を開催するなど、環境保全の町を内外へアピールした。
また、キノコに代表される山の幸、渓流魚などの川の幸が豊富で、四季を通じて、見て食べて楽しめ、訪れる人を飽きさせない。
※データは1997年 10月1日現在
![]() 「比和町立自然科学博物館」 2階は標本や文献が収められている。 開館時間:午前9時〜午後4時 (休館日は月曜日、12月29日〜1月3日) 入館料:大人300円/小・中・高・大学生100円 |
比和町に日本一の博物館があることをご存じだろうか。日本一といっても建物の大きさのことではない。そこに保存されている資料のことだ。
『比和町立自然科学博物館』。2階建てのこぢんまりした博物館で、専任の職員や学芸員はいないのだが、ここには10万点を超える動植物や昆虫の標本が収蔵されている。昆虫などの※タイプ標本をはじめ、希少価値のあるものが少なくない。しかし、それ以上に驚かされるのは、その標本に関しての膨大な資料を持っているということ。海外の博物館とも標本の交換ができるほど、その内容は充実している。
「標本というのはデータがあってこそ価値があるものです。ここにある標本は、学術的な情報に値するだけのものがありますし、日本の学会にいくつかのインパクトを与えています」と話すのは、自然研究の愛好者グループである『比婆(ひば)科学教育振興会』の事務局長、中村慎吾(なかむらしんご)さんだ。
※タイプ標本…新種を記載するもとになった標本
![]() 「これだけの財産があるんですから、それを活用し新しい研究ができる土壌をどう構築していくかが課題ですね」と話す中村さん。 |
会の発足は50年前の1947(昭和22)年にさかのぼる。もともと比婆郡内の小・中学校に赴任した教員が集まって結成されたもの。以来、中国山地を研究舞台の中心として自然史の解明に努め、これまで『広島県の山野草』や『広島県のキノコ』など数々の図鑑を編集・刊行。現在はアマチュアや専門の研究者、中には自分の田畑に生息する虫を40年間見つめてきた記録をまとめた農家の人など、年齢層も職業も幅広い。会員は200人余りに拡大し、県外の人も目立つようになった。
そもそも、比和町立自然科学博物館が建てられた背景には、比和小・中学校の児童・生徒の科学研究の活動がある。子どもたちが収集した資料の保存と活用を目的として1951(昭和26)年に比和小学校内に設立された。また、子どもたちだけでなく、町民も珍しい動植物を見つけては提供してきた。今の建物は平成2(1990)年、比和町役場に隣接して建てられた。
「町民がつくった博物館と言えますね」と、町の教育委員会。現在、管理は会に委託している。
![]() 「もぐらサミット」に出演したモグラのヒワちゃん。 現在、広島市安佐動物公園で飼育されている。 |
ところで、比和町立自然科学博物館は『モグラ博物館』の異名で親しまれている。日本はもとより世界のモグラまで実に1000点を超す標本を保存。先達の研究員が遺(のこ)した貴重な標本が素地となって日本一のモグラ博物館になった。
モグラといえば、田畑を荒らす害獣と思われていたが、その生態が明らかになるにつれ、自然環境との関係でも注目されるようになってきた。つまり、モグラが生息している土地は肥えている証拠。それだけ自然が保たれているのだという。
博物館にあるモグラの標本を使って研究している富山大学教育学部環境科学科の横畑泰志(よこはたやすし)助教授が「モグラのサミットを比和町で開催してはどうか」と中村さんに持ちかけた。今年はちょうど会の創立50周年、博物館の創立45周年に当たる。中村さんは会の創立記念として『広島県植物誌』、『広島県昆虫誌』、『比婆科学記念号』を編集・刊行。それに加えて節目となるイベントを開こうと決意。自然保護や人間と野生動植物の共生を願ってきた町も、町の活性化につながればと、サミットの開催を決めた。こうして会と町が連携し、11月8日(土)・9日(日)の2日間、博物館を会場にして日本初の『もぐらサミット』が開かれ、初日には150人余りの研究者が集まった。町では、博物館がこれからも比和町の情報発信基地になればと願っている。
![]() 「もぐらサミットが起爆剤になって、たくさんの人に訪れていただければ」と話す比和町教育委員会の荒木(あらき)教育長(左)と垣内(かきうち)次長。 |
![]() 「もぐらサミット」の参加者全員にお土産として配られた紙粘土のモグラ。町内の小・中学校の児童・生徒が作った。 |
これまで中村さんは欧米諸国の博物館を見てきた。「単なる見せ物館というのではなく、欧米のように知的遊園地として再生していかなければ」と考えている。「知性というのは一人ひとりの文化性、教養性。それを高めることが、やがて、環境破壊を食い止めることにつながっていくのでは」とも。アウトドアブームで自然に親しむ人が多くなる反面、その親しみ方が問題になっている。その人たちが残していくごみ一つとってみても、環境破壊につながる。比和町では幼いころから環境教育が徹底され、自然との正しい接し方を身に付けているという。人口が2000人余りという小さな町ではあるが、町民によって築かれた町の財産が、今、日本で世界で注目されようとしている。
![]() さまざまな分野から研究の成果が発表された「もぐらサミット」 |
![]() 比婆科学教育振興会の次代を担う若手メンバー。左から越智(おち)さん、角田(かくた)さん、榎木(えのき)さん、瀬尾(せお)さん、植敷(うえしき)さん。 |
![]() もぐらサミットのマスコットキャラクター「ヒワちゃん」。 町が募集したもので、1,262点が全国各地から寄せられた。 |