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井上 恭介さん(NHK報道局 報道番組センター社会番組部チーフ・プロデューサー)

印刷用ページを表示する掲載日2015年4月4日

 井上恭介さん

“お金で買えない価値”を発掘し
ひろしまの豊かさ、魅力を届けていこう

 <プロフィール>
   井上 恭介(いのうえ きょうすけ)さん

  
NHK報道局 報道番組センター社会番組部チーフ・プロデューサー。
   昭和39(1964)年生まれ。昭和62(1987)年東京大学法学部卒業。
   平成23(2011)年から平成26(2014)年まで、広島取材班のチーフ・プロデューサーとして広島市に在住。
   著書は「ヒロシマ 壁に残された伝言」「マネー資本主義」「里山資本主義」など。

さまざまな経験から感じた疑問
真の豊かさの答えが、ひろしまにあった

京都育ちの私は、昭和62(1987)年にNHKへ入局。ひろしまには、2度の赴任を経験しています。
1回目の赴任を終えて東京に異動後、平成20(2008)年に起こったリーマンショックをもとに、マネー資本主義の歴史と背景を検証する番組のプロデューサーを担当しました。金融危機はなぜ起きたのか、巨大マネーはいかにして膨らんだのか、ウォール街など現地に足を運んで徹底的に取材を。そこで感じたのが「マネーでマネーを増やしていくことで本当に幸せなのか?それで豊かといえるのか?」という疑問です。また、東京で東日本大震災も経験。電気が止まり、一点集中型都市構造のひずみ、アメリカ型資本主義経済のもろさを肌で実感しました。
こうした経験直後の平成23(2011)年に、私はひろしまへもう一度やってくることになったのです。家族とともに赴任し、平成26(2014)年6月に異動となるまで3年間、ひろしまで取材班のチーフ・プロデューサーとして働いていました。

当時、さまざまな疑問を胸に抱えていた私は、一度目では感じなかった、真の豊かさへつながる“芽”が、ひろしまを中心とした中国地方のあちらこちらにあることに気づきました。ならばと、面白い取り組みをされている方々へ直接会いに現地へ。地域エコノミストの藻谷浩介氏にナビゲーター役をひきうけてもらい、里山の生活を取り上げた番組を、1年半放送させていただきました。そこで生まれたコンセプトが「里山資本主義」です。つまり、ひろしまが里山資本主義の発祥の地、原点なんですよ。
番組では、身近にある“お金では買えない資源”を活用した、地域発信型の新たなライフスタイルを提言していきました。番組の終了後、平成25(2013)年夏には、藻谷浩介氏と共著で『里山資本主義 ―日本経済は「安心の原理」で動く』を出版し、現在40万部のベストセラーとなっています。

目の前にあるものを豊かだと認めること
そして、活用することが好循環を生む

 3年前と比較して、ひろしまにも海外からの観光客が増えています。観光客はいったいひろしまに何を求めて来るのでしょうか。それは、決して東京で体験できない、その土地に行かなくては経験できないことを求めているのではないでしょうか。
一方、過疎化が進む中山間地域へ足を向けると、地域の人々は「ここには何にもない」と口をそろえて言います。それは、東京と比べて、ビルがない、地下鉄がないという「何もない」であって、東京にはない“豊かに木が茂った山”があり、“美しい清流”が「ある」のです。無いものを欲しいと言っても何も始まりません。東京を目指すところとする限り、若者は不便を感じて、いなくなってしまいます。あるものを「豊かだ」と言っていくことがはじめの一歩になると私は考えてい里山の風景ます。要は考え方次第なのです。

一例をあげてみましょう。岡山県真庭市の建材メーカーのお話です。製材の工程で出る木くずで自家発電を始めたところ、年間の電気代がゼロになったという事例があります。しかも余った電気を売電したところ毎月定期収入が入るようになり経営も安定しました。つまり、お金を払って引き取ってもらっていた木くずをゴミと思うか、資源と思うかで経済は大きく異なるということです。

ね!何かできることを考えるなら、東京より山もあり海もあるひろしまの方がずっと豊かなんですよ。

地方創生はボトムアップから。
常識を見つめ直し、新たな価値を探る

 お金持ちが経済を動かして貧しい者にその恩恵がゆっくり降りてくるのを待っている“トリクルダウン”のような状態を打破したいと思いませんか。地方創生は、待ちから攻めへ!まずは、すぐにお金に結びつかなくても、生かしていくというボトムアップの方法を考えてみてはどうでしょう。
中山間地域には、介護の必要な80~85歳の高齢者がたくさんいます。動けないかといえばそうではない。ある社会福祉施設のデイサービスでは、施設の食事に利用者の育てた野菜を活用しています。食べきれない野菜をわけてください、とお願いすると100人ほどが手を挙げたといいます。60年以上のベテラン農家が自分で食べるために安心、安全に作った野菜です。それを毎日食べられるのだから、とても贅沢な話だと感じました。

20年ぐらい前には、たくさん採れたキュウリをご近所へ配ったら、漬物になって返ってくるというような交流がありました。今、そういったお付き合いが減った一方で、都心に住む人は、〇〇さんがつけたこだわりの漬物、といった手間暇かけたもの、歴史の古いものに高いお金を出すように変わってきています。つまり、モノに価値があるのではなく、付属するストーリーに価値を感じるようになったということでしょう。

ひろしまでも新しく価値あるものを見出そうとするならば、ぜひ昔からある“常識”をチェックし直してみてください。
例えば、カキ。東京でも広島産のカキのむき身はさまざまなスーパーで購入できます。でも殻つきは見かけることは、ほとんどかきありません。殻つきのまま網に乗せて焼くことは、とても珍しいことなんです。多くの都会の人は、そこに価値を感じます。

このようにひろしまには、埋もれたままの宝の山がいっぱいあります。
「里山資本主義」は、マネー資本主義を否定するわけでも、田舎での暮らしを推奨するわけでもありません。里山にはお金に換算できない価値があることを知り、そのうえで、自分の人生に適する割合で取り組んでいくことを指しています。都会で暮らす人に、取り入れたい、体験したい、と思われるような宝を発掘し、活かし、届けることで、双方にとってより豊かな生活を実現できるようになることを私は願っています。

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