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うつ病デイケアの試み

印刷用ページを表示する 掲載日:2011年3月10日更新

目次

  1. はじめに 
  2. うつ病デイケアの実際
  3. 評価
  4. まとめ

1.はじめに

患者調査より推計される精神障害者数は,平成5(1993)年の157万人に対して平成17(2005)年には,303万人となっており,この増加の原因になっているのが「うつ」を含む気分障害の増加であり,平成8(1996)年には全体の23.0%であったものが平成17年には34.9%となっている。
また,わが国の自殺率は平成10(1998)年から上昇し、依然として3万人の水準に高止まりしている。自殺の原因は多要因で様々な分野からのアプローチが必要であるが,背景の精神疾患としての「うつ」の重要性には疑問を挟む余地はない。
しかし,うつ症状を示す人が必ずしも適正な受療をしているとはいえないことや,回復期の職場復帰における適切なリハビリテーションのための施設や活動がないことなども大きな課題である。また,治療方法としては,薬物療法に加えて,慢性化や再発に対する認知行動療法の効果が注目されている。
このような状況の中で,当センターの公設のリハビリ施設としての役割から,平成19(2007)年9月から「うつ」を対象としたデイケアの試行的グループを立ち上げた。
ここに1期3ヶ月のクールで2期実施したので,その実践を報告する。

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2.うつ病デイケアの実際

(1)準備

 平成18(2006)年度に,うつ病デイケアを実施している沖縄県立総合精神保健福祉センターと東京都中部総合精神保健福祉センターの実際の取組みを視察した。
平成19(2007)年度に入り,デイケア開始に向け,認知行動療法をプログラムに導入する方針を定めうつ病の認知行動療グループセミナーを実施している広島大学病院精神神経科の12回のセッションに全て見学参加し研修を積んだ。
加えて,対象者・日程・プログラム・評価方法・広報などについて検討を重ねた。

(2) 実施期間

1期 平成19年9月から11月の毎週火曜日
2期 平成20年1月から3月の毎週火曜日

(3)スタッフ

従事スタッフ4名と非常勤講師3名で実施した〔表1のとおり〕。午後の認知行動療法の性格上,午前午後の活動でスタッフの役割分担を行った。他に,デイケア担当医師が数回午後に参加した。

<表1>

午前グループ活動

ソーシャルワーカー2名
(うち精神保健福祉士1名)

ヨーガ講師1名
午後認知行動療法グループセミナー臨床心理技術者1名
保健師1名
スーパーバイザー1名
(広島大学医学部大学院生)

(4)対象者

従事スタッフ4名と非常勤講師3名で実施した。午後の認知行動療法の性格上,午前午後の活動でスタッフの役割分担を行った。他に,デイケア担当医師が数回午後に参加した。

対象者は,次の項目に該当する人とした。

ア うつ病(ICD-10のF32,33の範囲内でパーソナリティー障害の合併症を除く)と診断
イ 精神科通院治療を受けている
ウ 概ね25歳から55歳
エ 所長が通所に支障がないと認めた人

(5)参加者

定員は,10名としたが実際の参加者数及び属性は表2のとおり

<表2>

1期:4名(男性3名,女性1名)・30歳代1名,40歳代2名,50歳代1名
・休職中・病気休暇中3名,主婦1名
2期:4名(男性1名,女性3名)・30歳代2名,40歳代2名
・休職中3名,主婦1名

(6)日程とプログラム

1日の流れは表3のとおりである。

<表3>

午前朝ミーティング ・グループ活動
昼休憩昼食,自由時間
午後認知行動療法グループセミナー
面接等 ・夕ミーティング

ア 朝・夕のミーティング
朝のミーティングでは,当日のプログラムの確認と気分調べを行った。気分調べは,気分,疲労感,眠気をそれぞれ5段階で自己チェックし,ひと言コメントを付けて話す方法で行った。また,夕のミーティングでは,次回予定の確認とその時点での気分調べを朝と同様に行った。
気分調べは,来たときと帰るときに自己チェックすることで,その時々の気分体調とその変化の有無を意識してみること,参加者がお互いの気分体調を知ることを目的に行った。

イ グループ活動 
リラクゼーションとエンジョイマイライフを2つの柱にして活動内容を決めた。
対象がうつ病の人であり午前中の抑うつ傾向が考えられたため,ゆったりマイペースで行える活動 であること,興味と関心を持ってもらうため,あまりしたことがないであろう活動を選んだ。
実施に当たっては,ゆったりした雰囲気を出すように心掛けるとともにゆっくりした進行で進めた。
実施した活動は<表4>のとおり。活動内容は1期,2期共通である。

<表4>

ジョイニングオリエンテーション&うつ病講座 1回13回
リラクゼーション
(心身のリラックス)
ヨーガ 4回13回
エンジョイマイライフ
(物をつくる楽しさ)
陶芸3~4回,蔓クラフト1回,ペーパーブロック
又は篆刻1回,燻製作り1回,料理1回
13回

参加者の中に特別緊張の強い人もいたが,回を重ねるごとに緊張が解けてジョークを言い始め,それが固いジョークから自然なジョークに変化し,周りが笑うまでになってきた。これは,グループが安心できる存在,受け入れてもらえる雰囲気を持ったことによる変化だと考えられ,グループの成長を裏付ける一例と言える。
また,昼休憩のフリーな時間についてはグループ活動ではないが,不安と緊張のため硬い雰囲気の中で過ごすことのないように,期間前半はスタッフが雰囲気づくりに入室することに努めた。しかし,参加者の中に話し好きで雰囲気を和らげる話題を提供する人がいたり,体育館で軽い運動を一緒にするなどの動きが出てきたため,後半にはその配慮は不要となった。

ウ 認知行動療法グループセミナー
広島大学病院精神神経科の協力を得て,同病院で行っている認知行動療法と同じ方法・テキスト・資料を使いクローズドで実施した。
また,同病院の認知行動療法にサブリーダーとしてかかわっている大学院生に今回のグループセミナーのサブリーダー及びスーパーバイザーとして毎回加わってもらった。
スタッフはリーダー1人,サブリーダー2人で固定して実施した。

 (ア)グループセミナーの目的

  • うつ病について正しく理解する。
  • 自分の思考・行動・感情の悪循環に気づく。
  • 自分が楽になるような認知・行動パターンを身につける。
  • 自分の目標や課題について,自分自身で解決できる力を身につける。

 (イ)グループセミナーの日程

<表5>

テーマ

時間

入門編1病気を理解しよう13時30分~14時30分
入門編2グループセミナーの説明13時30分~15時00分
#1さあ,はじめよう!13時30分~15時00分
#2生活の変化に目を向けよう13時30分~15時00分
#3考え方のくせを見つけよう13時30分~15時00分
#4考え方を再検討しよう13時30分~15時00分
#5気持ちが楽になるような考え方をみつけよう13時30分~15時00分
#6成功と失敗を分析してみよう13時30分~15時00分
#7苦手な場面について練習してみよう13時30分~15時00分
#81週間の計画を立ててみよう13時30分~15時00分
#9計画の立て方を再検討しよう13時30分~15時00分
#10まとめ13時30分~15時00分

(ウ)内容
今回取り入れた広島大学病院の認知行動療法は,

  1. 毎回セッションの内容やスタッフの役割が時間の流れに沿って細かく決められている。
  2. ワークシート・ホームワークを使用してセミナーを進めると,回を重ねるごとに参加者が自然にステップアップできるように構成されている。
  3. 毎回使用するワークシート・ホームワークはカラー刷りで,雰囲気をやわらげる工夫がなされている。

 の特徴がある。
参加者は毎回出されるホームワークで,毎日の自分の活動に伴う状況・思考・気分を記録することで自分と向き合うことを求められ,当初はしんどさを感じたようであった。しかし,回を重ねるに伴い自分を客観視できるようになっていった。
ワークシート・ホームワークの内容については,3人のスタッフが巡回しながら個別に対応し,達成感や満足感が持てるようできていることを認め,褒める関わりを行った。
また,セミナー終了後に毎回スタッフ間で関わりを振り返り,参加者それぞれに即したフィードバックを心掛けた。

(エ)参加者の様子
1期については,当初は女性1人を含む4人だったが,女性が途中から意欲減退して不参加となり,後半は男性3人になった。3人は“休職中あるいは病休中で復職を目指す”と いう共通点があったこと,“自分だけではない,ここには仲間がいる”“ここではなんでも話せる”という安心感から,回を重ねるにつれて凝集性が高まった。他の参加者の発言から得るものも多かったようで,お互いを肯定する発言が多く出るようになり,グループサポート機能が働いた。
2期については,女性が3人で,主婦を含めて仲間としてのグループサポート機能が働き男性1人を含め,4人全員最後まで参加することができた。
午後の認知行動療法では10回のセッションの中で自分の思考のクセを知り,柔軟で楽になる考え方を身に付け,参加者それぞれが次の目標に向かっていくことができた。

エ 評価データの変化
デイケア終了まで参加した1期3人,2期4人,合計7人のうつ評価データの結果は次のとおりであり,点数の低下,つまり症状の改善がみられた。

ハミルトン評価尺度17項目(医師による)のグラフ

SDS評価尺度(自己評価)のグラフ

BD抑うつ尺度(自己評価)のグラフ
*: P<0.05(Wilcoxonの符号付き順位検定)

評価尺度の基準

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3.評価

 (1) 対象者をうつ病に絞ったことでグループの凝集性が高まり,治療的な雰囲気が維持できた。対象年齢も自殺予防や        職場復帰をカバーできる範囲に設定したが適切であった。1期3ヶ月の期間についても次へのステップを踏める期間として適切であった。 

(2) 毎朝・夕のミーティングでの気分調べは,自分自身の気分体調を自覚できる効果の他に,他の参加者の気分体調を知ることができる効果があった。

(3) グループ活動をプログラムによって,“リラクゼーション”と“エンジョイマイライフ”に分類し,キャッチフレーズをつけたことで,参加者・スタッフとも活動目的をはっきりすることができた。

(4) 午前は参加者の交流や相互作用を促しながら実際の活動を行うグループ活動,午後は構造化されたクローズドな認知行動療法という構成は,アプローチの違うプログラムの組み合わせであるため,そのマイナス影響を懸念したが,結果的には,ひとつのグループとしての共感や分かち合いが生まれるとともに,行動と認知の両面にアプローチすることができ,治療効果がより高まり,意欲・活動性の向上へ繋がった。

(5) 昼休憩などフリーな時間も参加者の自然な交流が生まれ,参加者の関係や個別の変化をつかむ機会となった。

(6) 認知行動療法は広島大学病院で実施されているものを取り入れたが,病院の外来でクローズドに実施しているものと午前の活動もあるデイケアとでは,環境やスタッフの役割が異なるため,今後デイケアで実施しやすい方法の検討が必要である。 

(7) 認知行動療法グループセミナーは,参加者3人から4人で実施したため,きめ細かに係ることができた。定員は10名としたが認知行動療法に関して考えると6人程度までが適切と思われる。

(8) 今回初めて,午前のスタッフと午後のスタッフを分けて取り組んだ。認知行動療法のクローズドな環境を保つことを優先しようと分担を明確にしたが,お互いのスタッフとも半日の参加者の様子や雰囲気がつかめないデメリットがあった。明確な役割分担については今後検討が必要である。

(9) デイケア期間中に職場復帰した人もあったが,基本的にはデイケア終了後に個別面接をする中で次への ステップを考えていくことになった。期間限定のデイケアの場合,終了後の個別フォローが重要であると感じた。

(10) 復職支援については,障害者職業センターのリワーク事業など関係機関・事業との連携の必要性を感じた。

(11) デイケア中断者への対応としては主治医との連携の重要性を感じたが,まずデイケア導入時でのデイケア目的の明確化や対象者の選定にも配慮する必要性を感じた。

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4.まとめ

 このたび当センターとしては初めて認知行動療法を取り入れた「うつ」のデイケアに取り組んだ。
1対1の認知行動療法はその理論や具体的実践について一定の報告があるが,集団での実施については広島大学や沖縄県立総合精神保健福祉センターなど一部を除いて少ない。今回の試行において認知行動療法をグループ活動も含めたデイケアの枠組みの中に取り入れて行ったが,集団の凝集性の高まりをベースに相互の支えあいや学習促進機能が強化され,各参加者が認知行動療法を身につけるために有用であった。また,その結果は症状の改善や病気に対する構えの変化として現れた。
 今後はこの試みを定着させるとともに精神疾患による休職者の復職支援活動に発展させていくこと,経験を蓄積した後には研修などを通じて地域におけるうつ支援の活動をバックアップしていきたいと考えている。 

<謝辞>
 今回の報告に快く同意をくださった参加者の皆様には心より感謝いたします。また,見学研修の機会を与えていただくとともにプログラム実施に当たってはスーパーバイザーとしてご協力をいただいた広島大学 松永美希先生,吉村晋平先生,岡本泰昌先生,山脇成人先生に感謝いたします。

〔参考文献〕

  • 鈴木伸一・神村栄一著,坂野雄二監修 2005 実践家のための認知行動療法テクニックガイドー行動変容と認知変容のためのキーポイントー
  • 菅原 誠 他「復職できるうつ」と「復職が困難なうつ」 精神医学49(8):787-796 2007
  • 松永美希,鈴木伸一,岡本泰昌 他 うつ病に対する集団認知行動療法の展望
    精神科治療学22(9):1081-1091 2007
  • 木下亜紀子,鈴木伸一,松永美希 他 うつ病を対象とした集団認知行動療法プログラムの有用性
    精神経誌108:166-171 200

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