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文部科学省 是正指導に係る報告書の概要

1 はじめに

 平成10年5月20日,広島県教育委員会は,文部省(現文部科学省)から本県並びに福山市の教育について,法令等に照らして逸脱,あるいはそのおそれがあるなど不適正な実態があり,是正を図るとともに,少なくとも3年間是正状況を報告するよう指導を受けた。
 以来,法令等を遵守することを通して教育の中立性を確保し,職員団体等との適正な関係を確立するとともに,市町村教育委員会及び校長会との連携を強化し,その信頼関係を確かなものにしながら,校長権限の確立,ひいては県民から信頼される法令等に則った公教育の確立に努力してきた。また,県民,保護者に対し是正状況を明らかにするため,教育委員会会議及び県議会文教委員会において是正状況を報告するとともに,その内容を逐次ホームページなどに掲載するなど,公開性を重視して取り組んだ。
 このような中立性・公開性を柱とした取組みの結果,県内の大半の学校においては,法令等に則り,校長の権限と責任による学校運営がなされるようになった。しかし,未だに一部の学校においては,主任等が十分に機能しなかったり,学習指導要領を逸脱するおそれのある教育活動が行われる状況があり,今後とも残された課題について是正が達成されるまで取り組まなければならないと考えている。

 2 是正指導を受けるに至った背景・要因

 学校の教育活動及び管理運営は,法令等に則り教育の中立性を確保しながら行わなければならない。
 しかしながら,本県においては,県教育委員会が当面する課題の円滑な対応を優先するあまり,職員団体,同和教育研究団体及び様々な運動団体との交渉や話合いに応ずる中で,しばしば幾多の妥協を余儀なくされてきた。
 学校の管理運営においては,教職員の勤務管理,職員会議,主任制等に係る課題などを生み出した。中でも主任制については,昭和51年の主任の制度化に伴い,職員団体の反対闘争を受けて,教育委員会が職員団体と「協定」,「覚え書」を交わしたり,命課に当たり,「主任等を命ずるに当たっては,職員会議の討議などを経て行うものとする。」という教育長訓令を定めたりしたことから,教育委員会や校長は,長くこれらに拘束されることとなった。その結果,主任等の命課に当たり実質的に校長の意思が制約され,校務分掌との乖離や経験の浅い教諭が輪番制で命課されるなど,主任制本来の趣旨が徹底できないという状況が続いた。
 また,教育内容面においても,学習指導要領を逸脱し,教育の中立性が侵されるなど,多くの課題を生み出した。中でも,同和教育がすべての教育活動の基底にあるとした,いわゆる「同和教育基底論」や,昭和60年9月17日に当時の広島県知事,広島県議会議長,広島県教育委員会教育長,部落解放同盟広島県連合会,広島県教職員組合,広島県高等学校教職員組合,広島県同和教育研究協議会,広島県高等学校同和教育推進協議会によって作成された,いわゆる「八者合意」文書は,学校における校長権限を著しく制約するとともに,法令等に逸脱した実態を生み出すこととなった。 

3 文部省是正指導について 

(1)是正指導の経緯

 平成10年4月27,28日,文部省から県教育委員会及び福山市教育委員会に対して,現地調査が行われた。そして,5月20日には文部省から県教育委員会及び福山市教育委員会に対し,学校運営上不適正な実態があるとの指摘がなされ,教育内容及び学校管理運営について是正を図るとともに,是正状況を文部省へ報告するよう求められた。

(2)是正指導項目

【教育内容関係】

○ 卒業式・入学式の国旗掲揚・国歌斉唱
○ 人権学習の内容
○ 道徳の時間の名称,その指導内容
○ 国語の時間割
○ 小学校の音楽での国歌「君が代」の指導
○ 授業時数及び単位時間
○ 指導要録の記入

【学校管理運営関係】

○ 教員の勤務及び勤務時間に係る管理
○ 主任等の命課の時期及び人選
○ 主任手当の拠出
○ 職員会議の運営の実際等
○ 学校運営に係る校長と教職員団体学校分会との確認書等の状況
○ 市町村立学校の管理運営に関する県教委の取組み状況

4 是正指導の取組み 

(1)是正指導1年目の取組み

 是正指導1年目(平成10年度)においては,各学校における道徳,人権学習等の実情把握に努め,学校の管理運営の実態や是正状況を把握すべく,すべての公立小中学校及び県立学校を対象に校長ヒアリングを実施した。この結果,具体の課題が明らかになった,教職員の勤務管理の適正化,職員会議の運営,主任等の命課及び確認書について,適正化を図る指導通知を発出し,校長及び市町村教育委員会を指導した。特に県立学校については,本人の希望以外の人事については意見具申しないとするなど校長権限を制約する内容の人事協定書を締結しないこと,また,締結した場合は破棄することを指導し,人事の適正化に努めた。
 また,10月には,教育長ホームページ「ホットライン教育ひろしま」を開設し,本県教育に関する最新の情報を広く県民に公開した。特に,「意見のひろば」では,本県の教育施策に対する様々な意見を掲載し,開かれた教育行政の実現と県民の意向を的確に反映した教育行政の推進に努めた。また,県教育委員会の広報紙「くりっぷ」にも是正指導に関する経過を掲載することで,是正指導に対する県民の理解を求めた。
 翌年の2月23日には,臨時に県立学校長会議を開催し,卒業式・入学式における国旗及び国歌の取扱いを学習指導要領に基づいて適正に行うよう,教育長が各校長に対し職務命令をもって指示した。その中で,国歌「君が代」の指導にあたっては,その歌詞の意味は日本国憲法の枠組みの中で解釈されるべきものであり,我が国の繁栄を願った歌であるという考えを明らかにした。また,同日付で,県立学校長,市町村教育委員会教育長に対し指導通知「学校における国旗及び国歌の取扱いについて」を発出し,国歌「君が代」についての県教育委員会としての考え方を示した。また,教育事務所ごとに管内の市町村教育長会議及び校長研修会を開催し,指導の徹底を図った。
 さらに,平成11年3月に広島県立高等学校等管理規則を改正し,職員会議を校長の職務を補助させる組織として明確に位置付けるとともに,市町村教育委員会に対して同様に学校管理規則を改正するように指導通知を発出した。

(2)是正指導2年目の取組み

 是正指導2年目(平成11年度)においては,学習指導要領に則った教育活動の実施と校長の権限と責任による学校運営体制の確立をめざし,1年目の取組みで残された課題に取り組んだ。
 平成11年6月28日,県教育委員会は職員団体等とのこれまでの対応のあり方を見直し,以後,これに基づいた適正な対応を行うこととした。また,翌29日には指導通知「教職員研修について」を発出し,これまで職員団体との話合いにより進めてきた姿勢を改め,県教育委員会の権限と責任において適正に教職員研修を実施することを明確化した。さらに,10月25日の県立学校長会議,翌26日の市町村教育長会議において,平成4年2月28日の国旗及び国歌の取扱いについての県教育委員会の見解であるいわゆる「2・28文書」を,現在においては意味を持たないと明確に否定した。また,管理運営面においては,いわゆる「破り年休」の問題について,勤務時間を適正に管理するよう校長を指導するとともに,条例所定の事由がないのに,給与を受けながら勤務時間中に職員団体のために活動を行った職員について,違法に勤務場所を離脱した時間に相当する給与額の返還を求めた。
 また,教職員定期人事異動においては,長期在職者の解消,広域人事の推進,校種間交流及び他県交流などの推進を図った。
 また,県教育委員会は,主任等について職員団体との間で交わした「協定」,「覚え書」を破棄するとともに,広島県立高等学校等管理規則を改正し,命課は教育委員会の承認を得て校長が行うこととした。併せて,主任等の命課に当たり,職員会議の討議などを経て行うとする教育長訓令を廃止した。

(3)是正指導3年目の取組み

 是正指導3年目(平成12年度)においては,教育介入を排除し教育の中立性を確保するとともに,アカウンタビリティ(説明責任)を重視して,県民の参画と協力を得ながら是正に努めた。
 県教育委員会は,教育研究団体との関係について抜本的な見直しを行い,法令等に照らして適正な研究活動が行われ,その成果が期待できる教育研究団体に対し補助金等の支援を行うこととした。このことから,従来行っていた広島県同和教育研究協議会や広島県高等学校同和教育推進協議会に対する補助を廃止した。
 6月県議会ではいわゆる「同和教育基底論」を否定し,9月県議会においては,いわゆる「八者合意」文書について,「あくまでも過去の文書であり,今日においては,これに拘束されるものではない」という県教育委員会の方針を示した。
 12月下旬には,活動方針等において問題があると報告のあった教育研究団体に助成している市町村教育委員会に対し,ヒアリングを実施するとともに,学習指導要領をはじめとする法令等の趣旨に沿った適正な活動をするよう指導した。
 そして,卒業式・入学式における国旗及び国歌の適正な実施を図るために,12月26日に指導通知「卒業式及び入学式における国旗及び国歌に係る指導について」を発出するとともに,「国旗掲揚は正面掲揚が望ましいこと」,「国歌斉唱に際しては教職員は起立するとともに,児童生徒が起立して斉唱するよう指導すること」などについて,同日の県立学校長会議,翌27日の市町村教育長会議において指導した。
 主任等については,その命課時期の早期化及び適格者の命課に努めるとともに,教務主任研修を初めて実施するなど,主任等が実質的に機能するよう努めた。 

5 是正指導各項目の取組みの成果と課題

国旗・国歌

 県内公立学校の卒業式・入学式における国旗掲揚・国歌斉唱の実施率が100%となった。
学習指導要領に則り,児童生徒に国旗・国歌の意義を理解させ尊重する態度を育成するとともに,教育に携わる公務員としての自覚を促すよう,引き続き取り組む必要がある。

人権学習

 人権に関する学習の内容については,不適切な状況について一定の改善が図られた。
なお,一部の学校では狭山事件に関する裁判を差別裁判として扱うなど,学習内容において教育と政治運動,社会運動との明確な区別がつかず,教育の中立性確保の観点から問題のある状況が残されている。今後,人権に関する学習の在り方や内容などの具体的なものを提示することにより,適正な学習内容となるよう引き続き指導する必要がある。

道徳の時間

 道徳の時間の名称については是正が図られた。また,学習指導要領に示されている内容項目を全て指導している学校が増加しており,適正化が進んでいる。
 しかし,「世界の中の日本人としての自覚をもち,国際的視野に立って,世界の平和と人類の幸福に貢献する。」など一部の内容項目が指導されていない学校がある。
 今後,年間指導計画を作成させるなどして,全ての内容項目について取り扱うよう指導するとともに,学習指導要領から逸脱する学習内容とならないよう引き続き指導する必要がある。

国語の時間割

 「日本語」と表記されていた1校については,平成10年度に是正が図られた。

国歌「君が代」の指導

 小学校音楽での国歌「君が代」については,平成12年度には全ての学級で指導が行われるようになった。
しかし,卒業式・入学式において一部の学校で児童生徒が国歌を歌えないような状況があり,学校教育全体を通して,学習指導要領に基づいた国歌の指導の徹底を図る必要がある。

授業時数

 授業の1単位時間については,平成10年度に是正が図られた。
 また,各学校の総授業時数についても着実に改善が図られてきている。

指導要録

 指導要録の記入については,是正が図られた。なお,指導に役立つ適正な記入について引き続き指導していく必要がある。

勤務及び勤務時間に係る管理 

 校長が所属職員の勤務状況を把握できるようになり,研修,出張等を含む勤務管理が適正に行われるようになった。
 なお,一部の小・中学校においては,職員団体主催の教育研究集会に出張や研修で参加させるなどの状況があり,市町村教育委員会を通じて引き続き指導する必要がある。

主任の命課

 主任等の命課については,新年度の早い時期に命課が行われるとともに,位置付けやその役割も明確になり,適格者が命課されるようになった。
 なお,一部の学校において,主任等が機能していない状況があり,定期的な研修を行うとともに,主任等が機能するような校内体制を整備する必要がある。

主任手当

 主任手当の拠出については,引き続き主任制及び主任手当の趣旨の徹底を図る必要がある。

職員会議

 職員会議を,校長の職務を補助させる組織として明確に位置付け,ほとんどの学校で職員会議が適正に運営されるようになった。
 なお,一部の学校において,案件によっては職員会議により校長権限が制約される状況があり,引き続き職員会議の適正な運営について指導する必要がある。

確認書

 校長権限を制約する確認書を締結する学校は無くなった。
     引き続き,違法・無効な確認書等を締結しないよう指導する必要がある。

市町村教育委員会指導

 市町村教育委員会教育長ヒアリングなどを通じて,市町村教育委員会の学校管理運営の状況を把握し,適切に指導できるようになった。しかし,一部の地域において学校の管理運営に課題があり,引き続き市町村教育委員会を指導する必要がある。

6 今後の課題

 教育の中立性と公開性を確保し,県民に信頼される公教育の確立に向け,県教育委員会と校長及び市町村教育委員会が一体となって取り組む体制づくりが整ってきた。
 市町村教育委員会においても,政治運動や社会運動と明確な区別をした活動となっていない研究団体に対する助成の見直し等が進んできているが,一部の地域や学校においては,なお,是正が不十分な状況があり,今後とも,これまでの是正指導の取組みを継続し,教育の中立性を確実なものとしていく必要がある。小・中学校は,市町村教育委員会の姿勢によって大きく左右される状況があり,県教育委員会と市町村教育委員会の連携を一層深めていく必要がある。

 教育内容面及び管理運営面について,次のような課題が残っている。

○ 卒業式・入学式の国旗掲揚・国歌斉唱の実施については,学習指導要領に則り,児童生徒に国旗・国歌の意義を理解させ尊重する態度を育成するとともに,教育に携わる公務員としての自覚を促すよう,引き続き取り組む必要がある。

○ 人権に関する学習の内容については,教育の中立性確保の観点から問題のある状況が残されている。
 今後,人権に関する学習の在り方や内容などの具体的なものを提示することにより,適正な学習内容となるよう引き続き指導する必要がある。

○ 道徳の時間の指導内容については,一部の内容項目が指導されていない学校がある。
 今後,年間指導計画を作成させるなどして,全ての内容項目について取り扱うよう指導するとともに,学習指導要領から逸脱する学習内容とならないよう引き続き指導する必要がある。

○ 国歌「君が代」の指導については,卒業式・入学式において一部の学校で児童生徒が国歌を歌えないような状況があり,学校教育全体を通して,学習指導要領に基づいた国歌の指導の徹底を図る必要がある。

○ 教員の勤務及び勤務時間に係る管理については,一部の小・中学校において,職員団体主催の教育研究集会に出張や研修で参加させるなどの状況があり,市町村教育委員会を通じて引き続き指導する必要がある。

 ○ 主任制については,一部の学校において,主任等が機能していない状況があり,定期的な研修を行うとともに,主任等が機能するような校内体制を整備する必要がある。また,主任手当の拠出について,引き続き主任制及び主任手当の趣旨の徹底を図る必要がある。

○ 職員会議の運営については,一部の学校において,案件によっては職員会議により校長権限が制約される状況があり,引き続き職員会議の適正な運営について指導する必要がある。

○ 市町村立学校の管理運営については,一部の地域において学校の管理運営に課題があり,引き続き市町村教育委員会を指導する必要がある。

7 おわりに

 広島県に対する文部省(現文部科学省)からの是正指導は,是正指導を受けた項目に限らず,本県における教育全体を根底から見直す貴重な機会となった。
 これまでの3年間には,「義務教育改革推進協議会」及び「高校教育改革推進協議会」を設け,教育改革のビジョンづくりに努めた。また,開かれた学校づくりをめざし,全国に先がけて「学校へ行こう週間」を実施するとともに,県民参加による教育改革推進の一環として「子ども夢基金」を設置した。一方,教員の指導力の向上を図るため,「教職員人事管理システム研究会」を設け,新たな人事管理について研究を進めるとともに,初任から3年目までの研修や主任研修の実施など教職員研修を大幅に拡充した。また,小・中・県立の校長の連携による「広島県公立学校校長会連合会」が設立された。

 これら一連の改革は,新たな「教育県ひろしま」の創造に向け,より確かな方向性を示すこととなった。今こそ,公教育の基盤をより確かなものとし,教職員一人一人がのびやかにその力量を発揮できる教育環境づくりを進めるとともに,本県の教育力を結集し,本県教育の改革と創造に全力をあげて取り組んでいく。


更新日:平成13年6月21日

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