令和3年度 働き方改革先進企業経営者ミーティング 第1回イベントレポート
「働き方改革先進企業経営者ミーティングHIROSHIMA」(第1回)を令和3年10月14日に開催し、広島県働き方改革実践企業(認定企業)の経営者層29名にご参加いただきました。
※第1回は、新型コロナウイルス感染拡大状況を踏まえ、オンライン開催となりました。
開会あいさつ (広島県 湯崎知事によるビデオメッセージ)
広島県の湯崎知事から、県では「働きやすさ」と「働きがい」の実現を両輪とした県内企業の働き方改革を推進していることや、参加企業に対して『本イベントを通じて企業経営における「働きがい」の重要性を理解いただき、働き方改革の先進企業として先駆的な取組につなげていただきたい』と期待が述べられました。
特別講演 (合同会社おもてなし創造カンパニー 代表 矢部 輝夫 氏)
“奇跡の職場”のつくり方 ~仕事への誇りと従業員の働きがいを高める組織マネジメント~
- 組織課題の追求とDDSCAサイクル
東京駅を拠点に新幹線の清掃業務を専門とする株式会社TESSEI(テッセイ)。2005年に矢部氏が同社の経営企画部長として就任した際は、従業員の定着率も低く、無気力感も蔓延していたといいます。
まず、矢部氏が組織改革で着手したのが、組織の「おおもとの課題」を明らかにすること。課題がどこにあるのかを見極め、現状を正しく把握・認識することで、目標をきちんと思い描くことができ、課題解決につながると考えたそうです。テッセイの課題は「会社・リーダーがスタッフの頑張りに無関心であること」そして「仕事に対する世間のイメージ」。この2つの根本課題により、従業員は与えられた仕事だけを淡々とこなすようになり、自身の仕事に自信や誇りが持てない状態に陥っていたのです。
課題解決に向け、矢部氏が意識したのが”DDSCAサイクル”を回すこと。「まず自分たちの近い将来をデザインすることから始め(Design)、みんなでディスカッションしよう(Discuss)。そしてやるべきことをシェアし(Share)、経営層だけでなく、第一線のメンバーも含め共に創造する(Co-create)。更に実践や取組を皆で認め合おう(Acknowledge)」。この改革ストーリーを軸に、成果や数値を重視するマネジメントだけではなく、「人」のモチベーション・創造性・しなやかさ・やる気を引き出すためのマネジメントに舵を切られました。
- 仕事の再定義と認め合う文化づくり
次に、このDDSCAサイクルの手順に沿って実践してきた様々な取組や手法を紹介されました。特に注力されたのが「どんな手段を使っても従業員に『私達はお掃除屋さん』と思わせないこと」。「仕事とは、サービスとは、おもてなしとは何か」を皆で議論し、議論の過程で「“新幹線劇場”というステージの上で、お客さまと私たちが一緒になって素晴らしいシーンを作っていこう」と、従業員自身によって仕事が再定義され、「思い出を提供することが自分たちの仕事だ」と、新しい価値と世界の発見につながったといいます。
その他にも、「制服の変更」や、現場の発想・発案を即現場で活かせる「スモールミーティング」、スタッフ一人一人の地道な努力や小さな成功を発掘し発信する「エンジェルリポート」、組織の土台・根幹を担う「リーダーや管理者の役割の見直しや再配置」など、従業員が自らの仕事に誇りとやりがいを持ち、従業員同士が認め合い、高め合える組織づくりに向けた取組を実施されました。
テッセイでは『様々な意見を持つ従業員をまずは認め、共に行動することで、従業員は「認められた!」という気持ちになり、自己実現やお客様との感動的な体験を共有。その中で、従業員は「自分たちはお掃除屋ではない」という希望・勇気・働きがいを高めていった』そうです。「様々な取組を皆で考え進めた。ありとあらゆることを試み、それら全ての化学反応によって、今のテッセイは形作られている」とお話しされました。
- ”7分間の奇跡"とテッセイの目指す最終目標
また、矢部氏は「規律と統制がなければ"7分間の軌跡"と呼ばれる高い質のサービスを生み出すことはできない。だからこそ、規律という大きな枠の中にさえいれば、あとは自由にのびのびとやってほしい、そして自分達でできることをどんどん見つけてほしい」と従業員に伝えたといいます。一流の戦略よりも現場レベルで思いついたことを迅速に的確に行動するアジャイル型改革の方が、テッセイではより効果があると考えたからです。「現場の弱点や課題は、現場が一番知っている。建設的な意見・提言には決してNoと言わない」という“規律の中の自由”の大切さについて解説されました。
更に、経営者としての心構えや職場づくりのポイントなど“強固でしなやかな組織づくり”のエッセンスも数多く紹介いただきました。
最後に、矢部氏は『これまでテッセイは様々な取組を通じ、従業員のやる気・働きがい・生きがいを高めてきたが、最終目標は、テッセイブランド「7ミニッツミラクル+α」をもっと強固なものにすること。その挑戦がお客様からの絶大な評価につながり、結果的に更に従業員のやる気や働きがい、挑戦・継続への大きな力となり、企業のサステナビリティにつながる。』と締めくくられました。
- ≪質疑応答≫
講演後には質疑応答の時間が設けられ、参加者から「働き方改革の取組を長期間続ける中で、マンネリ化しないコツはあるか」と質問が上がりました。
質問に対し、矢部氏は、「組織の目標は大きく変えてはいけないところもあるが、目標の実現に向けてどう取り組むか、手法や視点は変えても良い」と回答されました。
また、自組織でのマンネリ化とはどういうことなのか皆で議論することの重要性について指摘し、方針を変えず一貫性を持った改革のことを『偉大なマンネリ化』と呼称し、継続して働き方改革に取り組む参加経営者らを勇気付けてくださいました。
ミニ講演 (県立広島大学大学院 経営管理研究科 教授 木谷 宏 氏)
県立広島大学大学院 木谷教授から、矢部氏の特別講演について以下の3つのポイントで解説がありました。
- 研鑽の重要性
経営学、マネジメント理論、心理学なども網羅した矢部氏のアプローチを「アカデミックかつロジカル」と解説。そこから経営者として日々研鑽することの重要性を示唆。 - 適応の重要性
矢部氏は「自社の位置付け、事業内容、従業員をしっかり観察し見抜いた上で、ベストな形で改革を行っている」と解説。働きがい向上の取組は、自社の組織の状況や従業員の特性に応じたアプローチが必要であると指摘。 - 信頼の重要性
矢部氏が従業員一人一人の力やチームの力を心の底から信じ、任せていることに触れ、経営者が従業員を信頼する力の大切さと、従業員の能力発揮の関係について解説。
続けて、「働き方改革の取組は、働きやすさ(つらくない仕事・職場)から働きがい(おもしろい!仕事・職場)へ移行することで経営メリットの実現へつながる」と、働きがい向上に意欲を持つ参加者へエールを送られました。
グループ意見交換 ~従業員にとっての働きがいとは何か~
「従業員にとっての働きがいとは何か」などをテーマに、参加者同士の活発な意見交換が行われ、各グループの代表からの発表で全体にもシェアされました。
特別講演について気づき・印象に残ったこと
- お互いを認め合い、高め合う仕組みがすばらしいと思いました。BtoCであれBtoBであれプロセスに大きな違いはないと思います。何のために働くのか、私たちの使命は何なのか。もっと分かりやすく社員に伝える必要があったと反省しました。社員同士が認め合える取組を検討したいと思います。
(蔵田ファイリング株式会社 代表取締役社長 田戸様) - 「リーダーは夢を語ろう!今までとは違う言葉で!」の言葉が印象に残っています。あまりブレない方が良いのではと考えていましたが、いつも同じこと言っていたら飽きますし、聞き流すようになってしまうことに気づかされました。
(株式会社テック 代表取締役社長 松下様) - 会社、社員がともに働きがいを目指すことの目的、すなわち持続性という所に今後の取組を再認識しました。また、講演の内容は具体的で、取り組まれている手段の根底にある考え方に共通するものがあり、自社で深堀するうえで、大変参考になりました。
(広島電鉄株式会社 執行役員人財管理本部長 八木様) - 「仕事の再定義」「規律の中の自由」という言葉に深い意味を感じました。どんなに制度や枠組みを作っても、それが社員一人一人の意識に響かなければ結局はうまくいかない。”働きやすさ”から”働きがい”のある職場にステップアップするためには、ますます社員とのコミュニケーションを深め、ともに未来を価値あるものにするのだという気概を持つことの重要性を改めて痛感しました。
(株式会社リョーコーテック 代表取締役社長 米澤様)
「自社の従業員にとっての働きがいとは何か」 など
- 有意義な意見交換になった。それぞれ業種は違ったが全員が必要なことと捉えている元になっている部分が企業として存在価値(パーパス)なのだと感じた。
(株式会社イシカワ 代表取締役 石川様) - お客様と直接接点が持てる場合とそれ以外の場合で働きがいを感じる点に違いがあった。従業員のモチベーションを上げるための取組や働きがいをどう定義していくか等、率直に意見交換が出来て良かった。
(大和重工株式会社 常務取締役 大津様) - 他の方の発表を伺い、弊社は仕事の再定義が不十分と感じた。"お客様が求めていること"の再定義を行い「我々のサービスの価値」に焦点を当てる必要がある。焦点を当てる際には、社員を巻き込んだ"議論"が必要と感じた。「社員の成長が働きがいにつながる」という発表もあり、キャリアパスなどの"社員の成長が感じられる仕組みづくり"は必要と感じた。
(株式会社アイ・エス・シー 代表取締役 三好様) - それぞれ会社の業種・規模・環境などが違っていますが、いずれの方々も自社の製品やサービスに自信を持っておられ、それが従業員への働きがいの一つになるとの思いも感じられました。その一方で若い世代の従業員や今後入社してくる人たちに、同じような考えが通じるのか不安も感じられている人もおられたが、今回のイベントのおかげで、その対応策について大きなヒントを得られたように感じます。
(コルベンシュミット株式会社 代表取締役社長 倉本様) - 弊社のように働きがいの向上に向けた取組がまだこれからである企業は、先進的な取組を行っている企業の事例を経営者ご本人から伺うことができる大変良い機会と思いますので、しっかり吸収し、自社での実践に生かして参りたいと考えております。
(ベンダ工業株式会社 代表取締役社長 八代様)
第1回参加者と登壇者のみなさま