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令和4年度 働き方改革先進企業経営者ミーティング 第2回イベントレポート

印刷用ページを表示する掲載日2023年1月25日

タイトル

 「働き方改革先進企業経営者ミーティングHIROSHIMA」(第2回)を令和4年11月15日に開催し、広島県働き方改革実践企業(認定企業)の経営者層28名にご参加いただきました。 

特別講演 (ダイヤ精機株式会社​ 代表取締役社長 諏訪 貴子 氏)

​ダイヤ精機株式会社の諏訪社長に、広島にお越しいただき、特別講演としてお話しいただきました。

町工場が実践する「社員のモチベーションの高め方」

 第2回特別講演(諏訪氏)​​​

  • 先代からの事業継承と「3年の改革」

 1964年創業の同社は、自動車メーカーや自動車部品メーカー向けの鍛造用金型部品、治工具、自動車部品の精度を測るゲージなどを高い技術をもって製作している。 
 諏訪氏は大田区で町工場を経営していた父親の急逝により2004年、32歳で専業主婦から社長に就任。借入のある会社の危機的状況を乗り越えるために、社長就任後すぐに経費・固定費を削減し、断腸の思いでリストラを敢行。しかし、それだけでは会社の存続も技術の継承もないと判断し、会社自体を新たに生まれ変わらせるために「3年の改革」を決意した。
 改革1年目は、社員の意識改革と組織構造の変革に取り組んだ。反発する社員ともベクトルを合わせていくため、1年かけて経営理念「ものづくり大田区を代表する企業となること」、経営方針「超精密加工を得意とする多能工集団」を固めた。「創業者のようなカリスマ性やリーダーシップを持ち合わせない2代目だからこそ、何事も理論的にロジカルシンキングで裏付けを示し、トップダウン型の業務指示ではなくボトムアップ型の意見集約型組織への再構築を図る必要があった」という。あわせて、意識改革の基盤強化としてOJT教育にも注力し、教育→実践→成果といった一連のサイクルを回すことで、徐々に社員の行動が変化した。
 改革2年目は、設備投資による社内活性化に取り組んだ。小さな町工場の強みである「対応力」を強化するため、新しい生産設備の導入と生産管理システムのIT化による一元化など、全面的な変更にチャレンジ。社長自ら必要性や効果について社員に説明し、根気よく質問に答え続けたことで、社員からも改善提案が出されるようになり、それを反映してシステムをカスタマイズしていった。このように、社員が必要性を理解し、自分事として積極的に関わっていった結果、1年程度かかると思われたシステム導入をわずか3カ月で実現したという。
 改革3年目は、維持管理と標準化に取り組んだ。1・2年目で改革したことを維持・継続・発展できるように、ムダの排除や仕組みづくりを行った。
 こうして、3年の改革が終了し、その年の社員旅行で社員から「俺たち社員一同、死ぬまで社長について行きますから!」と言われたことが最高の誉め言葉だったと諏訪氏は振り返る。そして、経営者として何より大切なのは「目的と方向性を示して、あとは社員のモチベーションを高める」ことだと実感したという。そして「経営者が暗い顔をしていては、社員のモチベーションは上がらない」と、経営者がイキイキと働く姿を見せることの大切さについても触れられた。

社内改革

  • 相手の気持ちに寄り添った人財育成

 続けて同社の人財育成等の工夫が紹介された。若手の定着率の低さが問題であった同社では、入社から1カ月、3カ月、1年、3年の「若手が会社を辞めたいと思うタイミング」に合わせて育成プログラムを組み立て、彼らに共通する感情(会社を辞めたいと思う気持ち)をケアできるように、心理学や哲学等の知見も取り入れた育成を行っているという。
 まず入社1カ月目までの新人に共通するのは「不安」という感情だ。彼らの不安を解消するため、初日から年齢の近い若手生活相談係(いわゆるメンター)を付け、何かあったらすぐに相談にのる体制をとる。
 また最初の1カ月で机上教育を行うほか、諏訪氏と1カ月間、交換日記をするのも同社ならではの特徴だ。「人の文字と文章にその人の性格や能力が表われる。切削に向いている、研磨に向いているといった個々の特性まで見えてくる。日記を通じて一人ひとりの性格を把握し、その人に合った教育を組み立てている」という。日記の文字から落ち込んでいる感情が分かる時には「落ち込んでいるようだからフォローしてあげて」と現場に伝え、周りの社員が励ましたり手助けしたりするようにしている。“みんなが見てくれている”ということが若者の安心感につながるのだ。
 入社後の不安が解消されると次は「自分はこの会社でどんなふうになっていくのか」と漠然と考え始めるタイミングになる。そこで3カ月目は、色々な機械を操作させたり、色々な社員の下で働かせたりと、様々な仕事を経験させる。すると自分でしてみたい作業や目標となる社員がおぼろげながら分かるようになるため、その目標を声に出して宣言させている。それが本人にとっての「ビジョン」となり、モチベーションを更に高めることになるのだ。
 本人のビジョンが決まると、次に気になるのが「自分は評価されているのか。会社に必要とされているのか」といった人の目だ。同社では若手に自信をつけさせるために、入社1年目にQC(コストダウン)発表会を行うという。これは、業務上のムダを新人の目で見つけ出し、改善するための治具を作成させ、どれほど改善効果が得られるのかを発表する場だ。改善効果を測定し、根拠をもって発表させることで、熟練の職人からも「お前すごいな!」と認められ、コストダウンという形で会社に貢献できたという自信が持てるのだ。ここまで来ると、辞める社員はほとんどいないという。
 入社3年目になると、育成プログラムの最後の仕上げとして「その人にしかできない技術」を身に付けさせる。経営的に見れば、社内で一人にしか出来ない技術があるということは大変なリスクだが、そのリスクを背負ってでも若手に自立と責任感を持たせるために行っているという。
 あわせて同社では世代を超えたコミュニケーションの促進も大切にしており、新入社員には、「知識や情報を学ぶためにも、社員同士の会話に積極的に入りなさい」と伝えている。また職場の連携を強め、仕事が楽しくなるように、「これだけは誰にも負けないというものを作りなさい」と教育しているという。この教えの中で、職人志望の入社1年目の女性社員は、猛練習の末、最終製品に文字を刻む「刻字」を社内の誰よりも早くきれいにできるようになった。すると、年上の職人から刻字を頼られるようになり、そこから彼女も職人へ気後れせずに質問ができるような関係性へと変化していった。仕事に対する自信が、若手と熟練者とのコミュニケーションを円滑にし、更に若手の成長にもつながったという事例だ。このように同社では社員が世代を超えて対話を重ねることで問題を解決する風土を培ってきた。「町工場の特徴は多品種少量生産。限られたヒト・モノ・カネで、1個から受注し、お客様のニーズに応えながら要求・納期通りに納めるためには、人の知恵が不可欠だ。とにかく皆で集まり、知恵を出し合い、問題解決していく。ある程度の問題はコミュニケーションで解決できることが、町工場の醍醐味だ」という。
 また、諏訪氏は上級カウンセラーの資格を取得し、年に1度、社員一人ひとりと1時間の1on1を行って、一緒に目標設定をしている。今の若者は、ストレス耐性が弱く心の病にかかりやすい。そのため、この1on1の中で、会社と社員の思いを合わせていくだけではなく、社員の考え方を深く聴くことで若手社員の心のケアも含めた伴走型の育成を実践しているという。
 このように、若手の不安を払しょくし、自信を持たせ自立させる育成方針に変えたことで、低かった定着率もアップ。50代〜60代が最も多い逆ピラミッド構造だった社員の年齢分布も、技術を維持したまま20代〜30代を土台にしたピラミッド構造の年齢分布へ移行することに成功した。

人材育成の流れ

【受講アンケートより】特別講演について気づき・印象に残ったことなど

  •  当社と似た業界なので、大変参考になりました。働きがいが向上しないのを業種のせいにできないと感じました。(広島イーグル株式会社 業務部 部長 大石俊也様)
  •  色々な取組や考え方も勉強にはなったが、社長の想いや熱意、本気度をすごく感じることができた。すごく勇気付けられました。トップのモチベーションを上げていかなければ、組織の改革はできないと再認識できたので、まず己の意識から改革していきたい。(株式会社八紘 代表取締役 庄田朋幸様)
  •  覚悟を決めて経営に取り組んでいる姿勢に感銘を受けました。理論的に問題を解決しながらも、情熱を持って社員に向き合っているところが、すばらしいバランス感覚だと思いました。(本瓦造船株式会社 専務取締役 本瓦歩様)
  •  製造業における社員への働きかけのポイントが、講演を通じて生き生きと伝わりました。社員とのコミュニケーションを図る為に、諏訪社長自らが上級カウンセラーの資格を取得し面談に臨まれたというエピソードは素晴らしいと思いました。(株式会社石崎ホールディングス 執行役員 川上俊彦様)(注)石崎の『崎』の右側は「大」が「立」​
  • ​ 社長が新たに採用した社員と1ヶ月間交換日記をしているという取組みが印象的でおもしろいと思った。(社会保険労務士法人ジャスティス 代表社員 高正樹様)
  •  新入社員に対しての具体的な取組を聞くことで自社へのプログラムを進めることができそうです。(株式会社C&Eコーポレーション 経営戦略室 室長 名越真生様)
  •  「ある程度の社内での問題は集ってコミュニケーションをとっていけば解決策が出るものだ」と言われたこと。(宗盛電気サービス株式会社 代表 宗盛文幸様)
  •  強み弱み分析によるコアコンピタンスへの集中、考え方・能力・熱意による社員選別、1on1ミーティング等々のマネージメントスキルの効果的活用に加え、先駆的なDXへの取組もあってこその実りある成果との印象を強く持った。また、メーカー社員としての基礎訓練を受けたのち、事業承継者として経営を担われて以降も、継続して経営力を高める努力をなさっておられることに感心した次第。(テンパール工業株式会社 取締役社長 伊藤豪朗様)
  •  諏訪社長の人間力に感動した。開会前、会場受付に立っていらっしゃっていたことにも。(楠原壜罐詰工業株式会社 代表取締役社長 楠原雄治様) 
  •  目標を明確にし、それに向けて計画を作り、それを職員に本音でぶつかりながら理解させて職員のモチベーションを高めながら会社を立て直した話に感銘した。社員のモチベーションの高め方等大変勉強になりました。(一般財団法人広島県環境保健協会 理事長 佐藤均様)
  •  働きがい向上のためには、社員の目標設定が重要とありましたが、経営者として社員に対して、目的、方向性を示す、モチベーションを上げると言った経営者が率先することの大切さを再認識させられました。(広島電鉄株式会社 執行役員 人財管理本部長 八木康夫様)

ミニ講義(株式会社ワーキンエージェント 藤原 輝氏)​

モデレーター

 働きがい向上の取組に向けて

 働き方改革コンサルタントであり本イベントのモデレーターである藤原氏から、『働きがい向上の取組に向けて』についてお話しいただきました。

  •  第1回では、働き方改革を、取組ステージごとに、第1ステージの「法令遵守」、第2ステージの「働きやすさ」、第3ステージの「働きがい向上」とタテ方向に分類した。今回は、「働きやすさ/働きがい」を「仕事」「職場」「組織」という3つのカテゴリーに分けて、ヨコ方向に分類してみる。

3カテゴリー

  •  働きがいのある「仕事」とは「仕事がおもしろい!」という状態だ。従業員が自らの仕事の意味を理解し、成果に責任感を持ち、仕事の達成感や、自身のスキルアップを実感できるようにすることで、仕事に対するモチベーションと満足度を向上させることができる。
  •  働きがいのある「職場」とは「職場がおもしろい!」ということだ。職場チームが連帯感をもって働けるように、社内コミュニケーションを活性化させることで、人間関係の質(心理的安全性)を向上することがポイントだ。メンター制度や1on1ミーティングなどが有効となる。

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  •  働きがいのある「組織」とは「この会社がおもしろい!」ということだ。従業員がワクワクするようなビジョンや戦略を示し、公平な人事制度を整えて、従業員一人ひとりを「個」として尊重することで、組織に対する従業員エンゲージメントを高めることがポイントになる。

グループ意見交換・全体発表・講評​

 具体的にどのような取組が社員の働きがい向上につながるのかについて、グループに分かれて意見交換と発表をしていただきました。講師の諏訪氏もグループを回り、参加者の質問への回答や、各社での取組のヒントについて個別にお話ししてくださいました。

グループ意見交換・全体発表・講評1 グループ意見交換・全体発表・講評2

グループ意見交換・全体発表・講評3 グループ意見交換・全体発表・講評4

【受講アンケートより】グループ意見交換

  •  従業員が、いかに経営に近づけるかが大事であるとの意見があった。従業員が日々何を感じているのかを、積極的にアンケートや聞き取りをされている取組もあり、今後の参考にしたい。(株式会社八紘 代表取締役 庄田朋幸様)
  •  新入社員研修に半年かけて取り組まれた結果、社員の定着度、及び現場の満足度向上に繋がったとのお話を伺い、弊社の教育研修プログラムの参考にさせていただきたいと思いました。(株式会社石崎ホールディングス 執行役員 川上俊彦様)(注)石崎の『崎』の右側は「大」が「立」​
  •  1対1のミーティングをしている会社が多くて結果がいいとおっしゃっていたので参考になった。(有限会社エイジ 部長 鳴本一也様)
  •  管理者層の育成や組織運営の肝を改めて感じました。1人1人やりがい、働きがいが違うからこそ現場で最適化させなければならない。(株式会社スグル食品 専務取締役 大塩和孝様)
  •  働きがいについて、人それぞれのものなので難しいが、その人その人に応じたアプローチをしていきたいと改めて思いました。(株式会社バルコム 部長 山口傑貴様)
  •  年齢構成等工夫したグループをつくり、毎月グループごとに話し合い、そこで出た意見を経営会議に上げ、できることから実行しているとの話があり、大変参考になりました。(一般財団法人広島県環境保健協会 理事長 佐藤均様)
  •  どの企業も、社長の思いや会社の情報が思っている以上に伝わっていない。社員の意見や思いを聞き出すためには、自由トークのオフミーティングや匿名でアンケートが取れる携帯アプリ等を利用されているとの話が参考となった。(株式会社ビーテック 代表取締役社長 垰田実様)

諏訪氏からの講評

  働きがいを向上させていくためには、長期的な目標設定が重要。当社では「大田区に社員全員が一戸建てを建てられるような会社にする」「もう一度、ものづくりやサービス業で輝く日本を見てみたい」という大義を掲げ、長期的な目標としている。遠くに目標を置くことで、経営者である自分自身のモチベーションも上がり、社長に就任して以来、一度も「会社に行きたくない」と思ったことがない。社長がまず雰囲気づくりをしていくことが大切。社長のカラーを大事にしながら、社員の働きがいを見つけてほしい。

諏訪氏からの講評

参加者交流会

 イベントの最後には参加者同士の交流会を行いました。和やかな雰囲気の中、活発な情報交換が行われました。

参加交流会1 参加交流会2

参加交流会3 参加交流会4

参加企業一覧 (五十音順)

企業ロゴ

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