自然再生事業は、過去に失われた自然を積極的に取り戻すことを通じて生態系の健全性を回復することを直接の目的としています。具体的には、直線化された河川の蛇行化による湿原の回復、都市臨海部における干潟の再生や森づくりなどを行います。自然再生事業は、単に、景観を改善したり、特定の植物群落を植裁するというのではなく、その地域の生態系の質を高め、引いては、その地域の生物多様性を回復していくことに狙いがあります。また、地域固有の生物を保全していくためには、核となる十分な規模の保護地域の保全とともに、生息生育空間のつながりや適正な配置を確保していく生態的ネットワークの形成が重要ですが、自然再生事業は、この生態的ネットワークを形成していく上でも有効な手段となります。
なお、この自然再生事業は、人為的改変により損なわれる環境と同種のものをその近くに創出する代償措置として行うものではありません。
自然再生事業を進める上で重要なポイントが2点あります。
その一つは、1)科学的データを基礎とする丁寧な実施であり、もう一つは、2)多様な主体の参画と連携が必要なことです。
自然再生事業は、複雑でたえず変化する生態系を対象とした事業であることから、生態系に関する事前の十分な調査を行い、事業着手後も自然環境の復元状況を常にモニタリングし、その結果に科学的な評価を加えた上で、事業にフィードバックしていくことが重要です。当初の計画に拘らず、モニタリング結果を踏まえて、臨機応変に計画変更を行っていくことが必要です。
生態系の健全性の回復には長期間が必要であり、自然再生事業は、その回復のプロセスの中で補助的に人の手を加えるもの、ということを認識した上で、時間をかけて慎重に取り組むことが必要です。従来型の工事は、道路などの人工的な構造物を計画期間内に人間の手で完成させてしまうことが目的でした。しかし、この自然再生事業では、自然を回復させるのが目的であり、それを成しうるのは、自然そのもののもつ回復力です。人間はその条件整備、つまり、きっかけづくりと回復のお手伝いをしているだけなのです。自然再生事業に着手することは、長い年月を要する自然再生の始まりに過ぎず、この意味では、自然再生事業には、従来型の「竣工=事業の完了」という概念は当てはまりません。
自然再生事業では、鉄やコンクリートではなく、間伐材や粗朶などの地域の自然資源や伝統的な手法の活用、大型機械よりも人力を十分に活用した労働集約的な作業など、それぞれの地域の自然条件に応じたきめ細かい丁寧な手法により、自然の再生・修復を進めていくことが必要です。自然生態系は、長い時間をかけ、微妙なバランスの上に成立しています。鉄やコンクリート、大型機械を用いて、短期間に大きな構造物を集中的に施工するという従来型の進め方では、自然の再生・修復に適さない場合が多いのです。
自然再生事業は、河川と湿原、干潟と藻場など複合的な生態系を対象とするケースもあるため、関係する各省庁が連携し自然再生事業を効果的・効率的に進めることが重要です。例えば、湿原の失われた生態系を自然再生事業で回復させようとする場合は、そこを流れる水の管理が重要となります。河川を所管する国土交通省、上流の森林や農地を所管する農林水産省、そして自然や野生生物を所管する環境省が相互に連携、役割分担し、全体的な構想のもとで共同して事業を進めていくことが不可欠です。
自然再生事業は、それぞれの地域に固有の生態系の再生を目指すものであるので、実施に当たっては、調査計画段階から事業実施、維持管理に至るまで、国だけでなく、地方公共団体、専門家、地域住民、NPO、ボランティア等多様な主体の参画が重要です。地域との連携はもちろんですが、むしろ地域からの自主的な発意や地域の主体的な取組こそ、自然再生事業の推進にとって重要な要素と言えます。
自然再生事業の実施にあたっては、回復させる自然の目標を定めますが、これには生態系の現況等自然的条件、地域や国民からの社会的要請、再生のための技術的可能性などの要素が関係してきます。生態系の現況、過去の自然の状況、地域の産業動向といった科学的・社会的な情報を、全ての関係者が共有した上で、社会的な合意を図りながら目標設定を行うことが重要です。このホームページも情報共有の一つの手段として運用しています。
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