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海洋生物等モニタリング調査

印刷用ページを表示する掲載日2011年11月21日

1 目的

 瀬戸内海の水質については,化学的な調査は実施されているが,生物などの視点からの生物学的な調査はほとんど実施されていない状況です。
 そこで,宮島において,環境の異なる沿岸3地点を対象に,海域環境が生物の出現状況に与える影響を把握するための生物を指標としたモニタリング調査を実施しました。

2 調査方法等

(1)調査時期

 調査時期は,平成14年度から平成16年度であり,調査日は次の表のとおりであり,調査日は気象条件などにより,左右されている場合があります。
 なお,平成14年度は,調査の初年度であったため,夏季調査から開始しました。

区分春季調査夏季調査秋季調査冬季調査
平成14年度8月25日11月3日2月2日
平成15年度5月17日8月30日11月9日3月7日
平成16年度6月6日9月1日10月24日2月20日

(2)調査地区(図1)

調査地区及び調査地点の概要は次の表のとおりです。

調査地点名調査地点の概要
上室浜地区人間生活の影響をもっとも受けやすい地点
腰細浦地区上室浜と革篭崎の中間の地点
革篭崎地区人間生活の影響を受けにくい地点

(3)調査対象生物等(図2)

調査対象生物及び調査回数等は次の表のとおりです。

調査項目調査内容調査回数
潮間帯生物 8種類
 (イボニシ,ヒザラガイ,カメノテ,カラマツカイ, ホヤ類,アオ
ナオサ,ツノマタ,オオヘビガイ)
年4回
基質 3種類(砂,礫,岩)年4回
海浜植物 5種類
 (イワタイゲキ,ベニバナボロギク, コシダ,ヒトモトススキ,
ホソバノハマアカザ)
年1回
(秋季のみ)
漂着ごみ 3種類(産業系,生活系,自然系)年4回

(4)調査方法

ア 潮間帯生物(図3)
 (ア) 1調査地点につき,15区域を設定し,1区域の調査範囲を20mとしました。
 (イ) 調査者は,1区域毎に海岸線に対して垂直に並び,調査者の左右概ね2mを観察範囲として,前進しながら,あらかじめ選定した生物種(指標生物)の数をカウントしました。
 (ウ) 潮間帯下部の干上がっていない部分は,胴長を着用し,箱眼鏡を用いて観察を行いました。潮下帯の調査はウェットスーツを着用して調査を行いました。
イ 基質
 各区域における砂,礫,岩の分布状況を調査しました。
ウ 海浜植物
 平成14年度に海浜植物の出現状況の調査結果をもとに,指標とする海浜植物を抽出・決定し,平成15年度及び平成16年度に調査を実施しました。
 (ア) 潮間帯生物調査のブロックを後背地側へ延長し,ブロック毎に観察をしました。
 (イ) 各ブロックにおいて調査対象生物の出現頻度,生育分布状況を観察しました。
エ 漂着ごみ
 潮間帯生物の調査と併せて,ごみの種類を生活系・産業系・自然系に分類し,ごみの漂着位置等を記録しました。

3 調査結果

 調査結果は,次のとおり。(図4-1[PDFPDF:72KB],図4-2[PDFPDF:262KB],図4-3[PDFPDF:99KB])

(1)上室浜地区

ア 潮間帯生物
 イボニシの平均出現個体数は,平成14年度から平成16年度にかけて,減少傾向でした。
 一方,オオヘビガイの平均被度は,徐々に増加しました。
 ホヤ類の平均出現個体数は変動が激しく,平成14年度の平均出現個体数が,調査期間中一番高かった。
 また,他の調査地区と比較すると,全体的に潮間帯生物の出現個体数が低かった。
イ 基質
 調査地区の東側は砂と礫が分布しており,西側には一部岩が分布しています。
ウ 海浜植物
 コシダはすべての調査地区で出現していたが,当地区は一番高い頻度で出現していました。
 イワタイゲキも,調査地区の中でも一番出現頻度が高く,比較的安定した群落を形成していました。
 ベニバナボロギクは,平成15年度には出現していたが,平成16年度では出現していませんでした。
 ヒトモトススキ,ホソバノハマアカザは,調査期間中において出現が見られませんでした。
エ 漂着ごみ
 調査期間を通して,産業系が占める割合が高い傾向であったが,平成16年度は夏季調査では生活系が高かった。

(2)腰細浦地区

ア 潮間帯生物
 イボニシの平均出現個体数は,平成14年度から平成16年度にかけて,減少傾向でした。
 ヒザラガイ,カメノテ,カラマツガイの平均出現個体数は,ほぼ横ばいでした。
イ 基質
 調査区域全体に,砂・礫・岩が分布していました。
ウ 海浜植物
 コシダの出現頻度は,上室浜地区より低く,革篭崎地区よりも高かった。
 ヒトモトススキの出現は,他の調査地区より高かった。
 ホソバノハマアカザは,調査期間中は出現しませんでした。
 ベニバナボロギクは,平成15年度は出現したが,平成16年度は出現しませんでした。
エ 漂着ごみ
 調査期間を通して,比較的,産業系が占める割合が高かったが,生活系,産業系,自然系の構成は,ほぼ同じ割合で構成されていました。

(3)革篭崎地区

ア 潮間帯生物
 イボニシとカメノテの平均出現個体数は,平成14年度から平成16年度にかけて,減少傾向でした。
 カラマツガイの平均出現個体数は変動が大きく,平成15年度の平均出現個体数が大きかった。
 アナアオサの被度は横ばいであった。ツノマタの被度は平成14年度が一番高く,平成15年度以降は減少傾向でした。
 オオヘビガイの被度は,平成14年度及び平成15年度は横ばいであったが,平成16年度には減少しました。
 カメノテの平均出現個体数及びオオヘビガイの出現被度については,調査地区の中で革篭崎が一番高かった。
イ 基質
 調査地区の西側は砂と礫が分布しているが,調査地区のほとんどは岩が分布していました。
ウ 海浜植物
 コシダは,他の調査地区と比較して,出現頻度が低かった。
 ヒトモトススキは,調査地区の一部のみで出現していました。
 本調査地区においてのみ,ホソバノハマアカザの出現が見られませんでした。
 イワタイゲキ,ベニバナボロギクは,本調査地区には出現しませんでした。
エ 漂着ごみ
 調査期間を通して,生活系のごみの占める割合が若干高く,次いで産業系の割合が高かった。

4 考察

(1)上室浜地区

 清浄海域の指標種であるオオヘビガイの被度が増加傾向にあり,清浄生物が生息するのに適した環境に変化していると推測されます。
 しかし,この出現変化は,一時的な変化か,清浄海域へ向かう変化かは不明です。
 コシダの出現が他の調査区域よりも高いため,現状よりもコシダが繁茂すると新たな植物の侵入が困難となり,植物の多様性が低くなる可能性が考えられます。
 生活系のごみの増減が激しく,調査区域は,廿日市市大野町に面していることもあり,荒天により
 生活系のごみが供給されやすい環境と推測されます。

(2)腰細浦地区

 調査結果の出現種数や個体数や,岩礁で構成されている基質の状況から見ると,生物にとって最も生息しやすい環境であるとともに,清浄な海域と推測されます。
 この地区は,山水の供給があり,ヒトモトススキが出現するのに適した状況であり,海浜植物の出
 現状況は後背地からの影響が大きいと推測されます。
 また,この地区は地形的に,自然的影響を受けやすく,特に台風などの自然的影響では,海岸地形に変化をもたらす場合があります。
 この地区は,カキ養殖などの産業系のごみが多く,次いで生活系のごみとなっているが,沖合いに遮るものがなく,ごみが供給されやすい状態にあると推測されます。

(3)革篭崎地区

 清浄海域に生息するカメノテ,オオヘビガイの出現が多く見られることから,他の調査地区と比較して,水質環境が良好と考えられます。
 宮島の最南端に位置している当調査地区の後背地は急峻で海に迫っており,潮や風の影響を受けやすく,指標植物の出現被度が低いことから,植物にとって不安定な環境であると推測されます。
 調査地区の位置から,人間生活の影響は受けにくいと考えられるが,漂着ごみの構成をみると生活系が多いことから,上流に位置する太田川からの影響や潮流の影響により,ごみが供給されていると推測されます。

(4)その他

 潮間帯生物については,調査地点によっては,清浄な海域に生息すると考えられている生物の出現状況に変化がみられたものもあったが,この変化は一時的な変化であるか,長期的な変化であるかは不明です。
 植物については,すべての調査地点でコシダが認められ,今後,コシダが繁茂すると新たな植物の侵入が困難となり,宮島における植物の多様性が低くなる可能性が考えられます。
 ごみの漂着の供給については,太田川の河川水の流下や調査地区における潮流や風向など様々な要因が複雑に影響し合ったと考えられるが,ごみの種類として,生活系ではカップ麺やペットボトルなどがあり,産業系ではカキ養殖に関するものがあり,日常生活で気をつければ,海域への流出がある程度防げるものと考えられます。
 なお,本調査結果は,生物などを指標としているため,3年という短期間では傾向は推測されるが,結論を導くことは困難です。

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